アドマイヤデウスはあまりにも悲惨なことになっている。
◯アドマイヤデウスの悲劇
直線までジッと逃げ馬についていき我慢して、さぁこれから追うぞ交わすぞという時には後ろが追いついてきていて、ピッチを上げながらソロソロと外へ出していくのだが前のカレンミロティックも同じようにヨレてきた・・・。
馬群に飲まれそうになりながらもカレミロを避けようと追うのだが、蛯名のカレミロはまるで狙い澄ますかの様にデウスの前へヨレていく。最後にヨレた時には脚はなくなっていて、下がりながら目の前に現れたカレミロにビビったデウスは走るのをやめてしまった。この斜行は少しひどいなぁ・・・。
◯中距離戦化
長い距離を逃げる馬が中長距離を逃げることによって中距離戦と化すこと・・・これはジャパンカップの習いとも言うべきだろう。しかしカレンミロティック蛯名がこれほどの覚悟を持って逃げに行くとは想像もしていなかった。ビートブラックみたいなことをしやる。
多少突き放す形にはなっているのだがペースは決して速くなくて、外枠の馬が無理押しして先行するとこういった現象がよく起きる。こうなると瞬発力勝負になってしまい、中長距離の脚では少し足りなくなってしまう。
またゴールドシップのまくりに反応したのは中長距離馬ばかりで、内で溜める中距離馬は見向きもしなかった。標的にされたラブリーデイを見て欲しい。サウンズオブアースがせっせと頑張っているのを尻目にほぼ馬なりで突き放している。俺の本命に不遜なマネを・・・!
◯中距離戦を出し抜く
こうなってしまうと切れ味勝負なのだが、東京2400mで前を追いかけた流れはラブリーデイには厳しいもの。ラップ上ではスローの瞬発戦だが実際にはスローの4Fスパート戦であるから、ピッチ脚では最後に詰めが甘くなる。
そういった中でビワハヤヒデやゼンノロブロイみたいなラストインパクトが素早く反応したのは素晴らしい。なんだなんだ、ハイインロー的に図太くなっていたのではなく、ハイインローによって本格化が遅れただけなのか?俺、お前のこと誤解してたよ。これからも仲良くしていこうな!
◯中距離戦を出し抜く2
大まくりで飛んでいったゴールドシップ、それに呼応したサウンズオブアース、ペルーサ、トリップトゥパリスの中長距離馬たち。それを冷ややかにやり過ごしたラブリーデイはジワッジワッと先頭に立った。一度は並んだかとも思われたサウンズオブアースはここで負けが決まったのだなぁ。
しかしこういった流れで錦の御旗を掲げるのはいつもディープ牝馬で、「米血なんじゃぁ!」「・・・何はともあれ米血なんじゃぁ!」と戯言を述べながら男を食らう悪女がいつでもどこでも現れる。
ショウナンパンドラは浜中俊が乗っていた頃は普通の淑やかな乙女だったが、出し抜きの天才池添謙一を背に迎えてからは悪女として本格化。混合戦において「牝馬の切れ」と「抜き出る速さ」を武器に宝塚3着、オールカマー1着、秋天4着と好成績。秋天は普通の牝馬らしい切れ勝負だったが、今回は違った。
・カレンミロティックが平均ペースで突き放したこと
・ゴールドシップがまくったこと
・本命馬ラブリーデイがピッチ馬であったこと
平均ペースで突き放される・・・ということは切れを伴った持続力で差しに動かなければならない。これはディープ牝馬の真骨頂で、代表格にデニムアンドルビーがある。
そしてゴールドシップのまくりによって恰好の獲物が提示されたこと。すなわちサウンズオブアースである。サウンズオブアースという踏み台を得たことによりラブリーデイまでの道が開けた。
最後にピッチとストライドの差でラブリーデイを交わした。どうやってもピッチ脚のラブリーデイは残り100mで脚が鈍る。サウンズオブアースと併せながら広げたストライドによってパンドラとラブリーデイとのスピード差は歴然としたものになっていて、それを背景に抜き去ったところがゴール。
これはないと思う。「抜かせない気性」のディープ牡馬が単独で走り続け、「抜きたい気性」のディープ牝馬が常に目標を持って走り続けた。これは中距離戦の大舞台でたびたび見られた内容だ。
時にはスピルバーグがジェンティルドンナを大外から交わし、時にはラキシスがキズナを追い抜いた。その時に明暗を分けたのは展開であったり力量差であったりしたが、今回は目標を常に持たせて走らせてきた池添謙一が名手ライアン・ムーアを凌いだと言える。
カレミロの蛇行がある以上は「もしも」に大きな意味はないのだが、あえて言えば「もしもラブリーデイが内へヨレて行ったならば」か。その時はハナ差先行したラストインパクトがラブリーデイを踏み台に最後まで踏ん張り通し、サウンズオブアースを追い抜いたショウナンパンドラは次の目標を失っていた。
ミスプロバックパサの俊敏性とウインドインハーヘアの抜かせない気性を武器にG1を勝ったディープ産駒。これが誕生していたかもしれない「もしも」である。
◯だが「もしも」はない
それでもまぁ・・・いつだってラブリーデイを追いかけてきた池添パンドラだからこそだわなぁ。ラブリーデイは抜けだしたあとにヨレない。それを知っていたからこそのあのポジショニングよ。
池添謙一というプロフェッショナルには「もしも」の介入する隙などない。あったとしても計算の内にいれるからこその「出し抜く天才」。武豊がコスモバルクが外へかっ飛んでいくことを計算に入れて内からメイショウサムソンを突き抜けさせたのと同じよ。
カレミロのヨレを受けてラブリーデイが少し外へ流れて進路を塞がれた時、隣のサウンズオブアースに進路を要求するでもなく池添はただジッと待った。カレミロが右ムチで内へヨレること、川田の右ムチが飛ぶこと、全て分かっているかの様に。
それは宝塚記念をまくり勝った時に内へよらなかった川田への信頼でもある。真っ直ぐ追うことの意識がある川田だから外へ流れた後、すぐに右ムチが打たれると考えた。
川田ラブリーデイだからあの時に待てたんだわ。海外騎手が乗っていたら進路を内に変えてカレンミロティックとラブリーデイの間に滑り込まなきゃならなかった。クビ差のロスはあったかもなぁ。
[fin]