砂時計のくびれた場所

競馬の血統について語るブログ

宇都宮紀行 前編

・プロローグ  3月ごろに地元の友人からLINEが入った。披露宴やるけど来るかと。俺は、普段から音信不通であり、フェイスブックツイッターに手をつけないシャイな男である。面謁で尊敬する人物として安藤帯刀を挙げた男である。「生真面目にアホなことする三河の侍です。」と説明したらしばらくシーンっとなり、「それは君みたいな人だね」と言われた男である。その時とても満足した。  武士を尊敬する人間であることを伝えたかった。そして、何を考えているのかわからないと言われる典型的なタイプでもある。なのでこういった誘いを断ることは考えなかった。断ったら「コミュ症の(競馬やチャゲアス)オタク」へシフトしてしまう。ちょっと義理堅いタイプへシフトしなければならない。  そういう算段もあるにせよ、友人を祝おうという気持ちも強かった。こういうことをあまり言えないタイプでもある。言葉には出来ないから行動で示すべきであった。よって、釧路から宇都宮へ向かうこととなったのである。もちろん、旅行気分でもあった。 ・服装に関して  釧路の人間が旅へ出ると99%の確率で暑がる。北海道で「暑い、暑い」と連呼する人間は「あいつ釧路か根室の人間だな」とすぐに分かるくらいだ。ネトゲで「君、釧路でしょ」と即バレしたほどに有名な習性である。根室にはほとんど人がいないので候補から外れがち。  それが夏の宇都宮へ行こうというのだ。周りの人たちには「俺干からびるかもしれない」と触れ回った。涼しいスーツを探したりもした。オールシーズンしかなかったから肌着を極薄にした。これめっちゃ涼しかった。  わざわざスーツを新調したのにも事情がある。披露宴に関して北海道とは特異な地域であり・・・といっても道内でも更に個性があるのだが、一般的に北海道の披露宴とは会費制でありフリーダムである。「ふくさ」「ピン札」「礼装」とはほぼ無縁と言っていい。会社帰りに何の準備なしに行けるほどに気軽なのだ。祝儀≒会費は財布から直接出すレベル。  だから「礼服白ネクタイ」まで決めて行くべきなのか、「ブラックスーツ+遊び心」で行くべきなのか、本州宇都宮の礼儀がわからない以上は無難な服装をしなければならなかった。ブラックはあってもストライプしか持っておらず、かといって友人枠で礼服白ネクタイというのもまた難しかった。親族だけに許される場合があるらしいのだ。(店員さんいわく)  なので無地のブラックを買い、ちょっと遊んだ白シャツを買い、シルバー基調のネクタイを買い、店員さんに促されるままにタイピンとハンカチと肌着と靴下と・・・「もう俺は4年間は披露宴の服装に困らない」というくらいに整えた。必要なものを買うに厭いがないタイプである。どうせだから何でもかんでも新調した。   ・ふくさ  「紫がいい」とあらゆる方面から勧められた。良いときにも、悪いときにも使えるからだそうである。しかし俺はそういう・・・「必需品な小物」にこだわるのが好きなので、無難な紫には不満があった。俺の金はそういった経緯で失われがちである。  呉服店へ向かった。店の表が振り袖にあふれていて男が入るには少し勇気を要したが、こだわりのふくさを思えばすんなりと入店することが出来た。俺は大いにふくさを求めていた様子である。値段も確認しなかった。  よい緑色のふくさを買った。黄色が好きなのだが緑も好きである。洋服の緑は嫌いだが、和装の緑は大好物である。和装の色合いに関して言えば何でもかんでも好きであり、その中でも特に緑が大好きだ。だがあの緑を緑というべきか。萌黄色って言えばいいのかな。これって黄色じゃね? ・強行軍の可能性  可能であれば1泊もしたくはなかった。インドアな俺であるし、週末(競馬)でもあった。そして宿を取れば金がかかる。クラッチ全損で減った貯金を思うと、やはり宿を取りたくなかった。強行軍は強行軍で一つの体験であるし、それはそれで楽しそうである。  だが厳しい。釧路→(飛行)→羽田→(モノレール)→浜松町→(京浜東北線)→東京→(東北新幹線)→宇都宮である。朝一夜ラスでの移動ともなると強行軍過ぎて死にかねない。それに「披露宴って何時に終わるの?」と聞くわけにもいかないだろう。また羽田釧路間の飛行機が17時台に打ち止めなのだ。  ならどうやって帰るのか・・・新千歳を経由する一手であろう。21時30分発のものがある。ただし23時5分に新千歳に着いた後に、釧路へ向かう手段がない。つまり行きもまた新千歳から飛ぶ必要があり、釧路新千歳間は車で移動せざるを得ない。この可能性に至った時、俺はゆとりのある日程を組むことに決めた。   ・ゆとりある日程  キャリーバッグをガラガラしながら修学旅行以来の関東をウロウロする以上は移動時間にゆとりを作るべきであった。本当は色々なところへ行きたかった。だが飛行機や披露宴に遅れるという失敗は俺のキャパシティを超えてしまう。フォローの効かない失敗の芽は潰さなければならない。  そこら辺は開き直った。今回の旅行は事前にたてた予定通りに動くことを重視しようと。普段からバスとか電車とかを使わず、自由気ままな自家用車生活を楽しむ俺である。俺とって公共機関とは未知の世界なのだ。地元のバスですら乗れやしない。電車とかさっぱり。  それだけに電子マネーとかICカードとか超嬉しかった。suicaを一度買ってしまえばドコにでも行けるのだから素晴らしい。あぁ、本当に素晴らしい。間違って山手線を逆行しても駅員に泣きつかなくとも良いのである。すぐに「逆行しようとも改札通過は変わらん」と開き直ってすぐに修正できるのだ。一度パニックに陥るとそれが出来ない。  俺の人生によくある。「どうしてそんなに深刻そうなの!?」と不思議そうな顔をされること。 [続く]