砂時計のくびれた場所

競馬の血統について語るブログ

有馬で見せた強気の理由 小倉大賞典回顧

テンの12.2-11.1-11.5/34.8は特別速いラップではないが小倉千八の逃げ切りでは例外的に速い。小倉千八の逃げとは基本的にスローからの長いスパート戦であり、前傾ペースでの潰し合いなどサンデー系が繁栄した以降に見られることはなかった。

仮にそれを可能とする馬がいたとしても、米血統にまみれた早熟馬(父ゴスホークケンがそうだろう)であっただろう。古馬重賞に顔を出す前に才能を枯渇させてしまうか、3歳時に大成してハンデG3とは無縁の競争生活を送るかの二択だ。それにしたってサンデー系全盛の現代において中距離のスピード勝負を挑める配合馬など限られている。

実際にこうして出てきてみなければその実在は眉唾ものであったろうし、またその配合パターンも妄想の域を出なかった。G1を勝てなくても、あるいは血統として残らなくても、マルターズアポジーという馬はサンデーサイレンス研究の題材足り得る。

1000m通過が57.6秒、1200m通過が1分9秒3、1400m通過が1分21秒0、1600m通過が1分32秒9、勝ち時計が1分45秒8。面白いもんで、関西にこういった逃げ方をする騎手は育たないんだよな。こういうおかしな逃げ方をするのはいっつも関東勢だが、不思議なことに、関東圏にこの類の競馬が育つ土壌はない。競馬場が騎手を定める・・・といつも考えているのだけれど、この傾向ばかりは例外だ。これは競馬村の傾向なのだろう。

関西は武豊という教科書があるから登りで負荷をかける騎手は少ない。登りが迫ればみな一様にペースを落とす(登りで落ちるであろうペースを修正しようとしない)し、下りでペースを上げない騎手など希少である。

関東は違う。誰がルーツなのかは分からないし、関西の色を突くために発展したのかも分からない。しかし下り前の登坂でペースを上げる(あるいは上り下りに頓着しない)という騎乗が嫌に目立つ。差し脚勝負を嫌ってアメリカ競馬的な競り落としを狙ってくるのだ。

それを応用させたのが石橋脩で、これは下りがヘタクソな馬(例えばトニービン持ち)を扱うときに登りでマージンを取る。京都外でそれをやってオルフェーヴルを破ったし、またそれを中山外2200mでもやってのけるから不思議である。単純に大逃げの手法として発展したものなのかもしれない。

ウチパクさんがゴールドシップでやっていたのは登りを目掛けて促していくというもの。前の馬はペースダウンするタイミングであるから取り付きやすい。前の馬に近づく実感も得やすいからゴールドシップもやる気を起こすというデメリットに目を瞑れば万事解決の感がある戦法だ。デメリットは単純に・・・心体の消耗が激しいということ。


[追記]

ゴールドシップの大まくりは2歳時にアンカツさんが始めたもので、そのアンカツさんは同年のジャパンカップでもウインバリアシオンを大まくりに飛ばしている。向こう正面の登坂でジワジワっと動いてはいるが飛ばしたのはその後の平坦部分。下りめがけてペースアップした形だった。


追いつく快感は置いていかれる絶望と裏表の関係だろう。実際にゴールドシップは追いついた途端に突き放されるということも多かった。ジャパンカップの負け方なんかは分かりやすい例だが、ああいう心を折られる様な負け方が競走馬には一番怖い。

また登りで仕掛ければ体力勝負になりがちだ。しかもゴールドシップにはゲート難という問題があったのだから相手の方が体力の消耗は少ない。常にディスアドバンテージの体力勝負でねじ伏せる必要があった。

だからこの馬の最も褒められるべきは気性と頭脳だ。負け戦と思えば勝手に競馬をやめる頭の良さ。そのくせ勝ち負けにおいては跳ねっ返りの気性を存分に発揮する。こんな都合の良い解釈が認められるのか不安だが、そうでなければ説明がつかない。あんな不細工な競馬でサラブレッドとしての精神を壊さずにいられた理由に。海外遠征までしてるんだぜ?

話がそれたが武士沢もそういった関東騎手の一人であって、そういった騎乗で臨んだ。だが馬がそれに対して完璧に応えてくれるとは思わなかったし、12秒2という驚異的な出脚で単騎逃げを1角までに確定させるとも思わなかった。もう少しもつれるんじゃないかと思ったが。

またその出足を以ってスローへ誘導するのではなく、むしろ淀みなく行ったところが素晴らしい。登坂部分を淀みなく、下り部分も淀みなく、3角4角も淀みなく。淀んだのは最後の1Fだけだった。追いつこうという気持ちを持った馬はほとんど潰れて、追走の気持ちだけで走った馬だけが残った。後方にいながらも残り500mまで我慢した高倉の騎乗は素晴らしいな。

あと机も素晴らしい。ハイペースを内で我慢して最短距離を通るというのが机の常道手段で、よくストロングタイタンを5着まで持ってきた。1番人気でここまで冷静な騎乗が出来るからこそ机は北村友一なのだ。

最後に、武士沢は騎乗の内容よりも馬への理解度こそ褒められるべきだ。有馬記念では糞真面目に正面突破の横綱相撲でマルターズアポジーを15着へ導いたが、それの必要性ってのを小倉大賞典で示したと思う。

それにしてもこの有馬記念は・・・分かりやすいよな。Buckpasserの前駆で動くサトノダイヤモンドが登坂後に一番鋭く伸びた。このサスの固い4WDな雰囲気がBuckpasserって風で、4つの脚で身体を前へ跳ねさせるんだ。だから四肢の付け根が硬い筋肉に覆われているんだけれど、芝が柔くないと故障が怖いな。

Princely Giftは前脚が伸びるというよりも肩がよく動くイメージの伸び方をしていて、これはBlandford的な全体の緩慢に通じる。この関節の躍動はゴールドシップにも見られるのではないかと。

[fin]