フレンチデピュティのパワーにおいて最も表現されやすいのはGood Example≒Eight Thirtyである、という話は先生の血統論を好むマニアたちには常識。
この2頭の父であるPilateは当時としては前衛的に過ぎた配合だと言わざるを得ず、種牡馬として似た配合を後世に残さざるを得なかったのは当然。だが現代までその影響力を残している点において非凡であり、リーディングサイアーの血を紡ぐことばかりが血統ではないのだと考えさせられる。
もっとも、そういった名血ばかりを紡ぎ荒らして化物が産まれるのも事実。そのあたりのバランス感覚が北米血統の魅力である。リエノテソーロなんかは正しくそれ。
Pilateが前衛的である理由とは、平たく言えばHerodiasにFriar Rockを配したことだろう。
The Tetrarchの好きなものと言えば間違いなくSundridgeであるから、その母と全兄妹の間柄にあるSainfoinの父系を取り込むことに不思議はない。不思議はないが疑問がないわけではない。どちらかと言えばSainfoinの方がマイナーである。
Sundridgeは常に華々しく伝わっている。最たるものはThe Tetrarch&Gallinuleとの合作であるMumtaz Mahalであり、これはNasrullahという超血統を輩出したし、またMahmoudを介して母系へ潜りSt. Simonに比肩する超激名血統Northern Dancerの輩出に貢献した。
また父系もそこそこに紡がれる。現代にまでそれが影響しているわけではないがそれを通して血を広く伝えており、Sunstar-North Starの血はTurn-toやRoman、Blue Larkspur、Balladierなどに見られる。
対してSainfoinは一発屋気質であり、その一発もNasrullahやMahmoudに届かない。父系としてはRock Sand-Friar Rock、母系に潜ってHurry On。こんなものだ。
だがその血は間違いなく現代に影響を残している。偉大なる甥っ子の血が世界中のサラブレッドの中へ含まれているからだ。甥っ子が導入した血を叔父はほとんどの場合で含まない。逆もまた然り。この関係があるからこそLyphardという血があり、Alzaoがあり、ウインドインハーヘアがあり、ディープインパクトがあるのだ。全きょうだいクロスとは、始点を同じくし道を別とした二つの名血統が巡り合うこととである。
そのめぐり逢いを先読みしたが如き存在、それこそPilateなのである。The TetrarchとGallinuleという実にSundridge的な繁殖牝馬Herodiasに対してSainfoin-Rock Sand-Friar Rockを配し、その上でFriar Rock直系らしいFair Play×Commandoの取り込みをやってのけた。
言わばMumtaz MahalとMan o'Warの中間を進んでいるのだ。またHerodias一家とは別の道をも進み始めた。
Hold Your Peaceの代においてHerodiasは合流し、次代においてNasrullahとの邂逅を果たす。そしてMitterlandはフレンチデピュティの代においてNasrullah≒MahmoudかつEight Thirty≒Good Example。いずれはフレンチデピュティ×フジキセキのIn Reality(War Relicクロス)。
この揺れるバランスの中にPilateはあり、フレンチデピュティの適性の広さはそれが影響されている。その半ばにNHKマイルC的な表現が見られるのではないか。
芝においてはNHKマイルCの他に桜花賞、秋華賞、宝塚記念、ジャパンカップ、日本ダービー、春天。砂においてはJBCスプリント、チャンピオンズC、フェブラリーS、東京大賞典。この多様性の最たるものこそがクロフネだろう。
「フレンチデピュティだから」という思いが常にNHKマイルCの予想を狂わせる。従いたくもあり、反発したくもあるから。
もっと本質的なところを突いて「これこれだからこのフレンチデピュティを買うべきなのだ」と言い切れてこそ血統マニアの予想に足る。俺はやるぞ。来年のために。
[ネタ振りというかネタバレというか伏線というか]
Sainfoinの父系から一頭の名血を抜いているのはわざとだよ?ホントだよ。
[重大な物忘れ]
母父SainfoinにはHurry Onの他にPhalarisがあった。なーんか忘れてるなぁと思ってたんだ。北米へ飛んで発達を遂げたSundridgeに対して、Sainfoinは欧州に土着してさりげなーく名血統を育てていたのだった。5代内において分かりやすいクロスを持たないという意味で「マイナー」ではある。
[fin]