砂時計のくびれた場所

競馬の血統について語るブログ

ルメールの手腕

おそらくミルコは「ルメールが行ったぞ、レースが動く。」と思ったはず。だから抑えた。

ところがルメールの巧さはそこなんだ。レースを動かさずに自身だけを移動させられる。それはオークスで見せた先行争いからしてもそうであって、サッと動いてサッと収まるあの柔らかさが全て。ハーツクライサトノダイヤモンドを御する手腕。

もしアドミラブルが持続力に特化した馬であったならミルコは迷わず追いかけただろう。レイデオロをまくって先頭に立ち、そのまんま押し切ろうという競馬をしたはず。けれどアドミラブルには瞬発力という武器があった。それだけに追い出したあとの調整が難しく、ミルコの騎乗においてはソフトな追走は難しい。

その結果、動くのが遅すぎて福永と仲良くスローの後出し競馬。あれは最悪の外出しであって、それでも3着まで届かせてきたのは流石としか言いようがない。最も強い競馬をしたのはアドミラブルに間違いない。

そして最もハーツクライ的にヴィルシーナ的に脚を展開したのがルメールで、同じ脚を持つスワーヴリチャードが追いかけてきても、ワンテンポ遅らせてから同じ脚を繰り出せば凌いで当然。レイデオロは強い馬ではないがルメールがあまりにも巧すぎた。

ハーツクライの有馬制覇から横ノリは前受けの技術を完璧に仕上げてルメールに匹敵する柔らかさを身に着けた。ソレを実践し、ルメールがそれを受け継いだ。このリレーはこの二人にしか出来ない芸当。

ハーツクライの育てた人間がハーツクライの馬を殺した。物語としてとても正しい。

Unbridled's Songから持ってきた「追い抜く気性」をスワーヴリチャードが抱えていた時点で、このハメ手が怖かったわな。こういう出入りの多いレースにおいては活かす機会が少ない。

[追記]

また周りとは違う競馬をするというのはめちゃくちゃ難しいだろう。追い抜けば追い抜くほど馬はテンションが上がっていくし途中で前がスパートをかけたら超ロングスパートになってしまう。そうなってしまっても追い抜かれながら馬の集中を途切れさせない技術が必要であり、例えば横ノリがケンブリッジサンでやった騎乗みたいなものが必要になってくるわけだ。もちろんルメールにも出来ることだろう。

だからミルコが追いかけてきても良かったし、追いかけてこなくても良かった。いずれにしても「折り合い」の一手で外と後ろの馬を殺してしまうだけだった。怖いのは内の番手から突き抜けられることだけ。

だから壁を引き連れてスワーヴリチャードの囲いを強化した。ペルシアンナイトの位置を取っていたならHaloの差し切り圏内であり、首の上げ下げまでは勝負をもつれ込ませられたはず。

[fin]