砂時計のくびれた場所

競馬の血統について語るブログ

仮の養老馬世界

ときは平成。馬主には馬の扶養が義務付けられ、金にならぬ老馬とて牧場に馬並みの幸せを提供させなければならない。国より多額の補填があるにせよ負担は大きくあった。

その時勢に、ある一頭の馬が盛大に転んだ。回復には外科手術を要する。

牧場「セイワローリアン号の件ですが、手術には100万ほど必要となるようです。」

馬主「払うには払うけどね、ちょっと今回のはそちらの不注意もあったんじゃないかい。」

馬主「あれは腸捻転から回復したばかりだったろう。それをどうして放牧したんだ。」

牧場「医師より全快したとの話もありましたし・・・歩かせてみてもやはり問題はありませんでした。」

牧場「徐々に慣らしてからの放牧でしたから問題というほどでもないかと。」

馬主「えらい強気だね、キミ。」

牧場「事実は事実ですし。同じ要領で過去に事故はありませんでしたから。」

牧場「それにこのくらいの馬齢ともなると事故はつきものです。」

馬主「つきものって・・・。金を払うのは全部こっちなんだぞ!」

牧場「全部ではないでしょう。後で5割は国から補填されますよ。」

馬主「たかが半分だ!先月だって先々月だって同じことの繰り返し。こっちも厳しいんだよ。」

馬主「あんたのところなら怪我もなかろうと思っていたのに、とんだ災難だ。」

牧場「信頼を裏切って申し訳なく思いますが・・・事故は起こるものなのです。」

牧場「私どもも努力を怠っているつもりはありません。それでも・・・。」

馬主「事故は起きる、馬主の金は手術に消えるって?そんな当然はいらないね。」

牧場「割り切らねばならぬことかと。」

馬主「もう疲れたんだよ。どいつもこいつもすっ転んで手術だ。いっそ頭を打ってそのまま・・・。」

牧場「心中お察し致しますが、それは。」

馬主「綺麗事だね。どいつもこいつも長生きしやがって費用がかさむばかりだ。」

馬主「1年間でニ千万も使わされちゃたまらんよ。なんたってこうも・・・。」

馬主「言っちゃ悪いがね、どうして君らは一命ばかりを助けるのだね。事故は起こすくせに。」

馬主「医師が匙を投げられないギリギリを狙い定めるかの如き所業。あぁたまらんよ。たまらん。」

馬主「ちょっと、予兆を見逃せばいいじゃないか。」

馬主「それで奴らはぽっくり言ってくれるだろうさ。腸捻転のときだって対応が迅速過ぎる。」

牧場「お話がズレているようですが・・・」

馬主「ズレちゃいないさ。そんな金のかかる丁度よい所へ定めたままに『努力』などと。」

馬主「努力と言うなら結果を出し給え。」

馬のために事故を起こさないか

人のために事故を見逃すか

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