砂時計のくびれた場所

競馬の血統について語るブログ

横一線の美学 高松宮記念回顧

ファインニードルは昨年の夏にようやくオープン入りした馬で、若き頃はシンザン記念を惨敗している。短距離戦線を戦い抜いてジワジワと強くなり、王者なきセントウルSで重賞初制覇。この段階での評価は「G1で積極的に買える配合とは思わない」。

しかしシルクロードSのパフォーマンスが素晴らしいものだった。こりゃMill Reef云々と言っていられんぞ、と本命を打ってめでたしめでたし。

Bold Rulerの敗北

過去の勝ち馬の多くはBold Rulerを持っている。

カレンチャンクロフネ
ロードカナロア~母Secretariat=Syrian Sea
ビッグアーサー~Bold Bidder
セイウンコウセイ~Seattle Slew×Well Decorated
コパノリチャードエアロヴェロシティ・ファインニードル~なし

この観点から予想をしていて、当初は母系にChieftainを持つレッツゴードンキに本命を打つ予定だった。Native DancerTom Foolに対する異系として働くBold Rulerが勝つレースなのだと。

おそらくそれは正しかったかと思う。だから「3着を外したけれどワンツー当てたぞ!」と手放しには喜べない。これはレッツゴードンキが勝つべきレースだった。

そのくらいに岩田は素晴らしい騎乗をしたし、レッツゴードンキのパフォーマンスはずば抜けていた。

競馬の深奥

2018年の高松宮記念がハイレベルであるということはない。ブリザードの様な配合馬を3着に予想し、それが実際に5着する程度のレベル。スプリント界における「サンデーの傷」は未だ大きいだろう。

言ってはなんだが、中距離重賞勝ち配合とスプリントG1勝ち負け配合は同列だ。現代日本競馬におけるスプリントはそれほどまでに低レベルであるし、ブリザード程度の配合を上に見なければならないほどにしょっぱい。

だから展開のアヤってのが本当に大きい。ファインニードルの勝利はハナ差を超えた薄氷にある。

草食系オブ草食系

ファインニードルは思った以上にVaguely Nobleがオンになっている。だからこそNative Dancerまみれの配合を成立させたとも言えるし、それはオルフェーヴル配合でも似たようなところがあるが、ともかく彼は英愛の気性がオンになっている。

Aureoleの気性ってのも謎であるが、これは追走状態を心地よいと考える様な草食系の気性だと考えている。萎えるというよりも、そこに落ち着いているのではないかと。

だからAureoleが表現された馬は前の馬を抜かない程度に追いかける。ぬくぬくしながら入線したAureoleってのは消耗しておらず、割と乱暴にレースを使われることがある。実際にファインニードルは過去に中一週→連戦で使われた。
(16/10/01→16/12/04→16/12/18→16/12/23→17/02/05)

中央競馬の1600万下で先行馬がやるようなローテではない。それこそノリマジックの犠牲者たちの様に走るのを嫌がる様になるはずだ。けれどAureoleが追走を好むのであれば、体力的にも精神的にも消耗は少ないはずである。

追い駆けて、追い駆けられて

今年の高松宮記念Aureoleの観点から非常に楽しいレースだった、と締めくくりたい。

まずブリザードが先行から早めに動き出していた。被せられるのはゴメンだ!とばかりに前の馬を追い駆けて4角をまくりにかかる。それを見ながら追走していたのがファインニードルで、自然、ファインニードルはブリザードを抜かさない。

リザードはNureyev3×3だから追い抜く気性である。目標を求めて内へ切れ込んでいく。

それを関東のイン差し巧者三浦皇成が狙い定めて、捌いた。ロスなく前を開けたナックビーナスが一気の脚で追い込みをかけるが・・・真横にいたのがファインニードルである。

併せ馬で登ってみると競り落とす英愛がクビ差凌いだ。エプソムダウンズほどではないが中京の登坂は過激であって、ここに抜くとか抜かないとかの要素はない。牝馬を牡馬が凌いだ。

ところがナックビーナスもHyperion牝馬だから登るのは得意で、後退してきた平坦世界の住人を美味しく食べてファイトバック。凌ぎ続けるファインニードル、凌がれながらも凌いだナックビーナス。うぉぉ猛烈なHyperion併せ馬ロケットだ。

皮肉な美学

Specialなブリザードを踏み台としてSpecialなレッツゴードンキを交わした。けれどファインニードルは一度たりともSpecialを相手としていない。

SpecialとAureoleを繋げたのはダイワメジャーだった。HaloとHyperionの組み合わせを累進することで成功するこの種牡馬は、追い抜くでもなく凌ぐでもなく、単調な先行策で現役生活を彩った名馬だった。

その仔らは、隙間産業に生きる。横一線を後眼に見た父とは違う生き方だ。


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