とある馬の騎乗を巡って内輪もめが起こった。
調教師「ハーツ産駒でゲートも出てきているし前に行って欲しい。」
助手「そうですね。トモもしっかりしてきましたし、前走はマイルでしたが大きく出負けしていません。」
助手「1800なら中団の前目は狙えると思います。」
ジョッキー「分かりました。とりあえずゲートは出していって、行けるところまで。」
ジョッキー「狙えそうなら番手まで視野に入れます。」
助手「はい、前に馬を置いて末を使えるように。」
調教師「うん、終いは使っていこう。」
ジョッキー「分かりました。そういった風に出来るよう努力します。」
レース後―
ジョッキー「勝ちましたね。」
調教師「勝ったな。」
ジョッキー「すいません。」
助手「華麗な追い込みでしたね。」
調教師「出していかなかったがどうしたんだ。」
ジョッキー「パドックでも言わせて頂きましたが、ちょっと脚元がフワついていて。」
ジョッキー「あまり負荷をかけたくなかったんです。」
調教師「そう言われりゃ仕方がないけれどな。」
助手(今までと同じような内容で勝たれても情報の上積みがない。)
調教師(次にどこを使うか迷う。)
調教師「どうだろう。乗り心地はどこか変わったかな。」
ジョッキー「ちょっと行きたがる場面が増えましたね。」
ジョッキー「2F棒あたりで競り合った時に一段上の末を使った様に思えます。」
調教師「長い脚を使った方が良さそうかな。」
ジョッキー「うーん、指示通りの好位からでも似た脚は使えそうですね。」
助手(馬群でひるまないかを見たかった。)
調教師(血統や調教の様子からだと馬群に入れても良さそうだが。)
調教師「折り合いはつくかな」
ジョッキー「流れにも依りますが、おそらく。」
助手(これやばいやつだ。)
調教師(追い込み一辺倒が仇になったか。)
ジョッキー(最後方であれだけかかるんだから、馬群はでたとこだな。)
かかりグセを徐々に矯正し、馬は中団後方から差して重賞制覇までこぎつけた。しかし背にはかのジョッキーの姿なく、乗り替わりのジョッキーがムチを高々と上げる。
ジョッキー「あの馬はG1まで勝てる馬だ。」
ジョッキー「けれど既に6歳。折り合いは気性の衰えと共につくかもしれない。」
ジョッキー「勝てるのだろうか。素質は間違いないのに。」
助手「あの馬にはもっと何かしてやれたと思う。」
助手「ただそれは現状に対して逆算が出来る類のものではなく。」
助手「きっと、根本的なこと。」
調教師「素質を見誤っていたつもりはない。やれることはやってきた。」
調教師「だが・・・やれることしかやっていなかったようにも思える。」
調教師「リスクを背負わせてやれなかった。」
[fin]