砂時計のくびれた場所

競馬の血統について語るブログ

絶妙なりミッキーアイル於2016マイルCS

・THE マイルCS マイルCSはペースダウンせざるを得ない条件である。仮に1分32秒きっかしに踏破するとして1F平均11.5秒で踏破する必要があるわけだな。厳密に言えば前1Fは12秒ほどかかり、また終いがかかることには抗えないので、ここも12秒ほどかかると考える。助走区間と惰性区間を覗いた6Fを68秒(1F平均11.26666…)で踏破する計算だ。 極端な競馬になったのはキョウエイマーチが逃げてタイキシャトルのが勝った98年(11.9-10.2-10.8-11.9-12.3-11.9-12.1-12.2)と97年(12.1-10.5-10.6-11.4-11.9-12.1-12.3-12.4)、不良馬場を3番手から抜け出したシンコウラブリイの93年(12.6-11.1-11.7-11.9-11.9-11.8-12.1-12.6)・・・くらいかな。ほかは大体34秒くらいで突っ込んでくる競馬だ。 つまりマイルCSとて古くからスローG1の温床であった。特筆すべきはダイタクヘリオスの逃げ切りだ。マイル戦で前半4Fを12.6-11.2-12.3-11.9、馬場を1分32秒ベースにすると3%減して12.2-10.9-11.9-11.5の46.5秒だからやっぱり遅い。千八ならザラにあるラップであるし、秋天でもトウケイヘイローが46.5秒を刻んでいる。完全に中距離世界。 ここまで遅くなれば、むしろ5番手くらいで壁を作った差し馬が台頭するペースだ。しかし実際には逃げ切りという話であり、こういったエグいドスローはサンデーサイレンスの血が繁栄したからこそ減っているのではないか。 ・血統の偏り ピュアマイラーにはスローで対抗し、スロー巧者にはハイペースで対応する。これが逃げの基本だろう。ただ、その戦略に馬が応じてくれるかは別の話であるし、相手が一頭だけということもない。また今の日本競馬の様に一つの血統が絶大なまでに繁栄してしまうと難しさは極まる。 一期生ジェニュインが制して以降、サンデーの勝ち馬の登場はデュランダルまで待たなければならない。そこからハットトリックダイワメジャーが登場し、「サンデーサイレンス×ノーザンテースト」の逆ニックスがマイルCS史に浮上した。サンデーサイレンスを淘汰し続けた歴史を持つからこそ、数少ないSS×NTの成功例が際立つ。 淘汰されながらも逆ニックスに抗ったデュランダルダイワメジャー、そしてハットトリックという変態が登場し、そしていなくなった。また非サンデーの時代が訪れて、そして非サンデーもいなくなった。 SS×NTという強烈な緊張と緩和をSSの孫の世代において実現したと言える。SSの孫世代が全盛期を迎え、ダイワメジャーデュランダルの様な馬を安定して供給できる様になった。当然上位のレベルも格段に上がる。サダムパテックの勝ち切りから一気にマイルCSは4分の1サンデーの時代へ入ったのだ。この段階でマイルCSは高速型ダイタクヘリオスが覇権を争う世界となった。 それも長くは続かない。突如・・・まさに予兆なしに現れた8分の1サンデーのモーリスが全てを撫で切ったのだ。 絶対王者を封殺するスロー 4分の1サンデーとてスローペースに興じていたわけではない。彼らなりのハイペースを以ってG1レースの体をなしていた。スローの感は否めないが勝ち時計に大きな差はない。馬場の速さもあるので単純な比較は出来ないにせよ、ダノンシャークがレースレコードを樹立する程度のペースは刻んでいた。 だけどその精一杯のペースをモーリスは楽に追走してしまった。切れ負けではなく余力の残し具合に4分の1サンデーは屈したのだ。安田記念マイルCSも4分の1サンデーのペースであるのに、モーリスは格の違いだと言わんばかりに末脚を使った。余勢を駆って海外でも連勝を伸ばした。 そうなったらもうどうしようもない。今まで切り詰め刻んだレースラップをピュアマイラー殺しのために崩すのみである。関東の名手が渾身の一撃を見舞った今年の安田記念ロゴタイプの圧勝劇・・・!ダイタクヘリオス再び! 限定された条件でなければ発揮されない騎乗ではある。モーリスの鞍上がテン乗りであるばかりか日本競馬に熟していない若手外国人、通称「偽ベリー」のトミー・ベリーであったこと。モーリス自身も海外遠征帰りであったこと。府中特有の「内から乾く馬場」であったこと。偽ベリーの本質が好位競馬にあったこと。スローにしやすい東京マイルであったこと。盛りだくさん! といってもこれらの条件を浮き彫りにしたのが田辺の騎乗であった。結果ありき! ・王者去りしあと モーリスが中距離戦線へ殴り込み、結果を出した。マイルCSは混沌を極めた。 予想が、混沌を極めた。混沌とはカオス。カオスとは「秩序あるランダム」(「明治維新を考える」より)。浜中が「ピュアマイラー殺しのスロー」とするのか「4分の1サンデーのペース」とするのか、全く想像がつかなかったのだ。 浜中自身はスローペース好きであるから俺はそちらとした。それはそれで折り合いが大丈夫なのかと思ったが、向こう正面は距離があるので緩く出して行って3角でペースダウン、その後はスルスルとペースアップするのだろう、と。 陣営は異口同音に「馬の行く気次第」「気分良く馬を走らせる」とコメントした。遠い京都の地にある一頭の馬のことは感知することは出来ない。この点においてミッキーアイルはランダムな要素であり、浜中ばかりが秩序としてあった。だがその秩序とて京都の型に馬をはめる程度の働きしかしない。 果たして、正答はいずれでもない第三のものであった。4分の1サンデーを殺し、ピュアマイラーと真っ向から争う、ひどく好戦的な逃げ味だった。もしスノードラゴンの位置にモーリスがいたら・・・そう思わせるほどの素晴らしい逃げだった。 2016マイルCS 12.3-10.9-11.2-11.7-11.4-11.7-11.6-12.3 ---------BS--------/--3C--/--4C--/-----HS---- ※赤文字が上り坂、青文字が下り区間。  BS~向こう正面 3C~3コーナー 4C~4コーナー HS~直線 4分の1サンデーの時代においてこんなラップが刻まれたことはない。あるにはあるけれど、中距離戦だけである。金鯱賞カレンブラックヒルジャパンカップエピファネイアくらいかな? しかし4分の1サンデーのマイルCSで後方を潰すならばこれ以上ないラップだ。これを差そうとするなら本当にギリギリまで追い出しを待つ必要がある。切れるの本当に僅かな区間イスラボニータはキレッキレに動くタイプだけれど100mも切れてないんじゃないかと思うくらい。スッと切れてからの平坦惰性で迫ったイメージ。 この逃げ切りを見ればモーリス不在であったことが悔やまれる。古くから終い12秒に突入することの多くなかったレースにおいて4分の1サンデーが堂々と12秒で押し切ったのだ。「俺は4分の1世界のダイワメジャーだ!デュランダルだ!」という結果だろう。 ダイワメジャーキョウエイマーチタイキシャトルに勝てるかとは思わないが、それでも超もウルトラもつかない一流どころを相手とするならば不足はなかった。モーリスは突然現れた8分の1であり、まだ8分の1世界の追求が進んでいない現代では力量の図りづらいところがある。 8分の1配合が進むにつれてモーリスの存在が霞む可能性は否めない。超がつかない一流であるならばミッキーアイルがモーリスを破る可能性もあっただろう。それならそれで真のマイル王が8分の1から誕生する・・・それもタイキシャトルの様に欧州の一線級を相手に出来るような馬が出るに違いない。「モーリスは四天王の中でも最弱・・・」ってことも! もちろんモーリスが欧州でも通用した可能性もある。遠い将来を見通すのであればモーリスの限界を見たかったし、彼を定規にしてミッキーアイルを計りたかった。終い12秒戦でモーリスを破るのであればフロックでもなんでもない。 [余談] イスラボニータの切れは日本刀ほどに切れる感じはなく、かといってナタの切れでもなく。野性味にあふれている割には破壊力に乏しいところがあり、なんかこう・・・ブチ切れた中学生が振り回しているカッターみたいな。 刹那の切れ味ばかりはトップクラスなんだけれど致命傷を与えるほどでもなくて、本当に本当に狙いすまして首筋シュッってするしかないんだけれども、イスラボニータってほら気性があれだから。壁退けたら暴走状態に入るでしょ。狙いすますの難しい。 場合によってはアグネスデジタルみたいな変態末脚が表現されてもいいはずだけども、あれほど乱暴にズバ切れるわけじゃないから勝ち味が薄いんだよね。あんなの末期の際の足利義輝公レベルだもん。圧し包んで滅多刺しにするしか攻略法がない。 彼の骨格はどうなっているのか謎。あの頭の高いフォームからストライドがどうして伸びるのか。 [fin]