砂時計のくびれた場所

競馬の血統について語るブログ

宇都宮紀行 後編

・諸事情  空の旅である。釧路空港に車を駐めて・・・と思ったら母がありがたいことに送りを申し出てくれた。まぁ、諸事情あって話すこともあった。本来なら披露宴へ向かうことも避けるべきであったが、俺にとってさほど親しい間柄でもなかったので黙殺されたのである  まぁなんだ。親族に不幸が・・・ね。諸々の情報は全て母がストップをかけていて、全部終わってから聞いたわけだな。姉は激昂したし、その気持ちも分かる。俺はまぁこの予定が入っていたことは伝えていたし、式に参列してしまえば喪に服すべきであろう。ぶっちゃけ、母の配慮には感謝したくらいである。縁の浅い親戚より深き友人を優先したかった。参列しなければ神にも仏にも「俺無関係!」と言える。少なくとも墓へ参るまでは・・・。  そもそも、神も仏も信ずる者の勝手である。都合よく許してくれるのが神であり仏である。判断がつかぬ場合は自らの信じる道を行く。両方とも大事に思ってるからね!と最低限の義理を通せばきっと許してくれる。そう思わなきゃやってられん。ただ、怖いのは人だわな。遺族だわなぁ・・・。披露宴に出席したことなんて絶対に言えないぞ。  そんなこと考えていることも新郎新婦、その親族にも言えないわなぁ。喜ばしいことを一定の人間に黙らなければならないなど、つまらない事情を持つことを許して欲しい。義理を通すことの難しさ・・・これもまた「歴史もの」の醍醐味ではあるんだが、実際にそうなると堪らないな。 ・空の旅  手続きなどは、まぁプロの方々に泣きつけばどうとでもなる。手伝えることに関して「手伝ってくれ!」と要請すればきちんとやってくれるのである。  して。ゲートくぐって、暇つぶしにタバコ吸って、お茶買って、タバコ吸って、片隅で「翼をください」の上巻を読んで、ようやく搭乗開始。長い長い。だが乗ってしまえば外見ているだけで時間が潰れるのだから面白い。窓際の指定取ってたし、隣が空席だった。快適な空の旅。  でも久々の飛行機は怖かったなぁ。みるみる内に地面が遠くなっていって雲の上まで行ってしまう。そしてそこから更に上昇していく。しかも途中でフワッと浮いたからなぁ・・・。ジェットコースターかと。 ・地上の旅  ゆとりのある日程・・・あれは半分嘘である。披露宴の前日に宇都宮入りすべく、行きに関してはやや強行軍であったのだ。19時10分に飛び立ち、羽田到着は20時40分くらいだったかな?それで東京発の東北新幹線が22時44分。suicaを買ったり、新幹線のチケットを受け取ったり、そういったことも含めて羽田東京間を行かねばならない。ゆとりはある。だが初の関東単独移動を行う俺には強行軍である。  モノレールは普通のに乗ってしまった。ワンマンに乗れば速かったし、でかいキャリーバッグを置く場所にも困らなかった。なんか微妙にサラリーマンの帰宅ラッシュに乗り合わせてしまったらしく、えらい混雑の中で肩身の狭い思いをした。  またモノレールのsuicaが気に食わなかった・・・というかよく分からなかった。お姉さんに「どこでも使えますよ」と言われたのだが、券売機も空いていたことだし普通に切符を買った。これはこれで楽しかった。「やっぱり終わった奴は返ってこないんだ!」と。俺の知識はこの程度である。  またこれはこれで新幹線切符の時に役立った経験である。役目を終えない限りは吸い取られない・・・切符って二度通したらさらばだと思っていたからね!宇都宮→東京間では三度通すことになって焦ったぜ。あれって乗車券と特急券と・・・なんか色々複合してるんだものな。終えた今でも仕組みがよく分かってない。とりあえず出なくなるまで通して、また入場してた。  よってsuicaは浜松町で購入した。初めて使ったときの感動は今も忘れられない。これで新幹線に乗られたならばどれだけ良かっただろう。年会費必要だし、俺のスマホは古いから操作が鈍いんだよねぇ。カードタイプで乗られるようになるのはいつごろだろうか。 ・信用問題  初めのつまづき・・・それは旅立ち前に起こっていた。クレジットカードの枠が終わっていたのだ。残り3000円しかなかった。スーツを買う時にもクレジットを使えないから変だなぁと思っていた。  別にね。引き落としができなくてストップされていたとかでもなく、衝動買いのしすぎというわけでもない。クレジットカードを落とした時、そして番号をハックされた時、これらに備えて使用残高を最小の30万に設定していたんだ。それにクラッチ全損の修理代24万が入ったわけ。  加えて、楽天で飛行機とホテルを取った。加えてガソリン代、悩みに悩んで買ったエアロバイクの費用。修理代の支払いは徐々に進んでいたとは言え、枠を使い切るのは容易かった。  発覚したのが出発前夜である。このままでは新幹線の受け取りができない。「えきねっと」ではクレジットカードのみでの支払いということである。急いでクレジットの一時的な増枠を申し込んだが、既に日をまたいで当日となっていた。増枠は翌日からだ。  詰んだと思った。すぐさま「えきねっと」のマイページに飛んだが深夜の操作が出来なかった。まじかよ・・・まじかよ・・・と、混乱のまま眠りについた。ネットの海を泳ぎまわっていたせいもあって午前2時を回っていた。ちょっとキムタクっぽく「まじかよ」って言ってた。 ・信用問題 明けて  朝5時に目覚めた。楽天からの返信はなかった。当然である。昨夜に終えた荷造りをちょいちょい弄り、本棚からBECKを取り出して読んだりした。「えきねっと」のサービスが開始するとともに連絡いれた。キャンセルの申し込みである。  実はキャンセル料金すら払えないほどクレジットカードは終わっていた。だから電話口でキャンセルを頼み込み、振込用紙でも送ってくれたらいいな、と。ところが、通話中に閃いた。キャンセルで振り込みできるくらいなら、土壇場で現金払いオッケーなんじゃね?と。訪ねた。オッケーでた。超嬉しかった。 ・地上の旅2  東京駅にたどり着いて、すぐさま「みどりの窓口」を求めた。事情が事情であるので有人のものを探したのだが、出入り口付近のものは既に閉まっていた。強い不安を感じながらもまた探しに出た。既に退場していたので通路をウロウロしながら。  飛行機は予定より早く到着し、また順調に東京駅までやってこられた。なので時間にも余裕があり、心にはもっと余裕があった。金銭的な余裕はないに等しいというのに「最悪の場合、新幹線の切符は新しく取ればよいのだ」と開き直るほどである。  気持ちが乗れば理屈に対して素直になれる。本来、5000円くらいの出費なら許容範囲なのだ。それを不必要に恐れ、混乱し、恐慌に陥る。こうなってしまうと、おまけとして後悔というのがついてくる。大惨事である。  だがこれも予め恐れていたことが大きい。大都会の公共機関を使用することに恐れを抱き、丹念に調べあげたのだ。暇があれば東京駅や羽田空港、浜松町の見取り図を眺めていた。どこのホームに行くべきか、どういった名称の路線へ乗るべきか、間違えそうな事柄はないか。図を見ながら何度もイメージトレーニンを重ねたのだ。  この予習があればこそ、初めての東京駅でも困らなかった。折を見て現在地を確認すれば大体の方向が分かる。だからみどりの窓口、有人verを見つけ出すことが出来た。今回の旅行において、助けを求めず俺一人で成し遂げたこと、その唯一の例がこれである。ホント小学生みたい。 ・信用問題 本番  結論から言おう。クレジットカードが通った。  どうやら申し込んでいた増枠がギリギリ間に合ったようである。「クレジットが通らなかった時に現金対応しますので、とりあえず試してみますね。」と言われてさ、あーはいはい、形式上のアレね、と思ってたら・・・通った。お互いにキョトンとしていて、後方に控える研修中の人もアレ~みたいな顔してて、いや、研修期間中の人なんて大抵の場合で不思議そうな顔しているものかな。とにかく取り越し苦労に終わった。通りましたねー、そうですねー、みたいな。  これにて宇都宮行きの全てが整った。30分の暇を持ったので、喫煙所を探してスパスパした。そして新幹線をホームで待った。 ・つまらぬ心配  思ったのだ。全ての不安が取り除かれ、新たな不安を探すかのように。「俺以外の人たち、みんなバッグ小さくね?」と。小さな不安を俺は抱いた。みんな飛行機の中に持ち込める範囲の大きさでしか荷物を持っていない。  怖くなった。その妄想の果てにたどり着いた。「もしかして新幹線にも荷物預ける場所あるんじゃね?」と。前編の終わりに書いたように、俺の人生にはよくあることである。「なんで君はその結論にたどり着いたの?そんなの初めて聞いたよ?何なの?」と。駅員さんの顔に「予想外」と書いていたよねぇ・・・。  ただ自由席は混み合っていたからなぁ。あのでかいキャリーバッグを持ち込んでいたらちょっと大変だったかもしれない。グリーン車取っておいてよかった。 グリーン車  披露宴に出席した友人に言われた。「リッチだな」と。  しかし北海道の金銭感覚とはそんなものである。釧路札幌間を夜行バスで移動してね、それが往復1万円なんだぜ?でも東京宇都宮間を新幹線グリーン車で取って、往復1万円だぜ?こんなのグリーン取るに決まってんじゃん。しかもガラガラグリーンと満席自由ならなおさらだって。  もっと言えば釧路札幌間を特急で行って片道9000円弱だからな。この感覚で生きているんだもん。けれどそれと釧路羽田間を比べないんだから不思議な感覚だよねぇ。釧路の公共機関はクソみたいに高いから・・・。むしろ東京宇都宮間が安くて安くてビビったぜ。安すぎて自由席はカオスなことになってるんじゃないかと警戒したわ。  釧路は経済孤島だな。まともな職もなければ遠出するのにも金がかかる。そりゃみんな山の中へ入って温泉に浸るわ。自家用車でブーンブーンと気軽に安く行けるからな。 ・宇都宮雑感  幸いなことに天気が優れず涼しかった。釧路住みからすれば「絶好」と言うべきだろう。30度オーバーを想定しただけに・・・オールシーズンのスーツ上下を来ていても汗かかない程度に涼しかったもの。素晴らしい。  宿はリッチモンドホテルアネックス。綺麗でコンパクトな部屋が魅力的で、ベッドメイクもやはり完璧だった。寝心地よし。ただ周りが大人なお店ばかりで、酒の飲めない俺には不都合が多かった。深きへ行けばマッサージ店も。  飯なしで泊まっていたから少し困った。仕方なく喫茶店に入って適当に食ったのだが、カレーがやたらとハズレでねぇ。これは相容れない!と思ったものだが、とても閑静な店でBGMもささやかだ。一人で入りやすくタバコも吸える。俺はここを第二の基地とすることに決めた。  カレーについては・・・冷食ハンバーグとレトルトカレーな感じ。お前、これで千なんぼも取るのかよ、と。コーヒーを少々売りにしているだけあってこちらはまぁまぁ悪くない。出てくる速さからして保温にかけているはずだが、風味が消えていないのは面白い。  炭火焼きって言っていたかな。まぁ、コーヒーの美味しさではないのだが商売としては上等ではないだろうか。どこの店が卸しているのかは知らないが駅前の喫茶店にはベストの選択だ。こだわるところは注文入ってから豆をひくし、ガチドリップだから時間がかかる。ヘタしたら閑古鳥鳴いているのに10分くらい来ないもの。  あと・・・レモン牛乳美味いな。あれはたまに飲みたくなるわ。 ・エピローグ  普通に披露宴へ向かい、一人寂しい思いを30分くらいして、友人がやってきてめちゃくちゃ安心して、もう一人出席予定であった友人が全く現れない・・・けれどゲストカードは提出されているという謎っぷりで、これはずっと気になっていた。どうしたんだろう。  帰りは普通。あぁ、行きの京浜東北線で人身事故があって止まったんだが、帰りの新幹線は地震で止まった。そして帰りの飛行機は釧路の霧で遅延していた。余裕のある予定を組んでいなければイライラしていたかもしれない。  それでも早めに羽田へ到着して、2時間位暇してた。おみやげとか見て、カフェでコーヒー飲みながら本読んで・・・「翼をください」をこの旅行中に読破したくらいだものな。通算4時間ほどは読書に時間を割いたんじゃないかな?  俺にとっての旅行はこういったものかもしれんね。もうちょっと移動に慣れたら、あるいは慣れの必要がない程度の地域であれば、あっちこっち行って本でも読んでるかもしれない。理想は古びた温泉宿に1週間位逗留して、温泉&読書の無限ループを楽しむことだな。  惜しむらくは・・・出発日の朝に宇都宮城址公園だけは見に行く予定だったんだが、うん、うん、寝坊したんだよね。起きたら9時でね、身だしなみ&荷造りをしなきゃならなくなっていた。新郎にアドバイスをもらっていたのに・・・。  仕方ないからまた訪れようと思う。日光東照宮鬼怒川温泉も行きたいから。レモン牛乳も飲みたい。  また披露宴も良いものだった。随分とたくさんの時間をかけてああいう催しを行ったわけで、家族を作るというのは凄まじい労力を要するのだと思ったよね。果たしてそこまでしたいと俺は思えるものかは。彼はそこまでしたのだよねぇ・・・。  全く以て優しい男である。少年時代からそうだろうそうだろうと思っていた、誰もが思っていた人物なのだが、それに応える努力をして、そのままに結婚までやってきてしまった。こりゃ大人物だぞと。  そのくせ細かい所作は少年より変わらないのがね、すんごくアンバランス。遠目で見ても「あ、あいつだな」と思うくらいに特徴的なところがあって、彼は和やかな雰囲気を持つくせに細かいところで機敏に動くのだよね。フットワークが軽いと言うのとはまた違う。  ともあれ人の幸せってのは良いもんだな。もちろん赤の他人が背負い込む不幸に等しいドタバタ騒ぎも見ていて面白いものだが、当然、ベクトルってのが異なるよね。良いことも悪いこともたくさん起こればよい。親しい人間の悪いことは勘弁だが・・・その時に自分がどう思うのかってのにも興味がある。  その辺りはな、あと30年もしたら親が教えてくれるだろう。 [fin]