砂時計のくびれた場所

競馬の血統について語るブログ

AJCC回顧 犯人は誰だ

残念ながらシングウィズジョイ予後不良エンパイアメーカーとの配合が決まりそうなマンカフェ娘に不幸が訪れた。

トロールを見ても確たることが分からない状況で、ふわふわした採決レポートにも納得してしまう。

おそらくナスノセイカンが躓いたかなにかしたのが始まりだろう。この躓きはゼーヴィントとルミナスウォリアーが進路を塞いだことに端を発するだろうが、配合と結果と展開から考えれば直接の接触はないだろう。ハーツクライ産駒にしては小回り脚を持ったタイプではあるが、4着馬にまくられた直後に2着馬へオカマを掘るということは考えづらい。これに関してはあくまでも想像であるが。

ともあれナスノセイカンが躓いた。失速し、すぐに追い直された。おそらく半馬身か4分の3馬身ほどのロスだろう。レース全体で言えば1馬身以上あったかもしれないが、その場においては半馬身ほどの後退であったはずだ。よほどタイミングが悪くなければ大事故とはならない。

しかしシングウィズジョイはそのタイミングを得た。きっかけはヨシトミ先生のクラリティスカイだった。勝ち馬タンタアレグリアがすごい勢いで内へ切れ込んでいくのを見てヨシトミ先生はそれを追いかけた。そして4角の半ばまでその真後ろでおとなしくした。

動いたのはリアファルの後退していくタイミングだった。後退によるポケットを目掛けてタンタアレグリアをまくり殺す意図を見せ、実際にそれは成就する寸前まで行った。けれどそれを壊したのは当のタンタアレグリアであって、斜行ギリギリのタイミングで前を横切った。

スピードを乗せてさぁ行こう!というヨシトミ先生であったから、しかも4角の途中であったから、逃げ道は外にしかなかった。マイネルフロストを外に押し出す格好にはなるが、追突の危険ばかりは避けなければならなかった。抑える手はあっただろうが半馬身だけの進路があれば解決する問題である。柴田大知に都合を頼んだ。

ところがタンタアレグリアの斜行は留まることがない。パトロールビデオを見ての通りに、この馬は、蛯名正義は、マイネルフロストの進路すら危ぶまれる走りを見せたのである。マイネルフロストが外へ寄ったのはクラリティスカイに依るものであるが、大知が立ち上がったのは蛯名正義の斜行に依るだろう。

この偉大なる関東のベテラン二人が柴田大知を外へ不安定に押しやったのである。

柴田大知を背にマイネルフロストは外へ流れ、シングウィズジョイとヤマニンボワラクテ、ホッコーブレーヴが玉突き式に外へ飛んでいった。ここまではわりとよくある日常的な不幸である。しかしシングウィズジョイばかりは、弾かれた進路上に躓いた馬があったのだ。

ルメールは立ち上がりながら内へ誘導した。この時点ではナスノセイカンがどれほど下がってくるか分からないため、即座に進路を内に求めたのだ。接触によって外に弾かれた牝馬を強引に内へ切れ込ませる、そんな荒技に活路を見出した。

当然そんなことは出来やしない。左前脚に強い負担がかかり、耐えきれずにそのまま左前からシングウィズジョイは崩れ落ちた。骨折そのものは転倒が原因であろうから、転倒の原因は走りの無理が引き起こしたものだ。

バイクで言うハイサイドのようなものが起こったと考えられる。コーナーリング中、やや外側にある物体を避けるために後輪を前に持っていって内へ切れ込ませる。当然後輪はグリップしておらず外へ流れていく。緊急避難としての走法であるので直線へ入っても立て直しきれない。内へ切り込ませながら失速を待ち、折を見てグリップを回復させる。

シングウィズジョイは直線に入ってすぐにグリップが回復してしまった。それが左前脚の躓きを招いた。躓くというよりも「つんのめる」という風が適切かもしれない。左前脚がつんのめって歩様を乱し、二完歩目にゴロリところんだ。タイミングがおかしかったのはそのせいだ。

結果からすればルメールの避難は失敗だった。ナスノセイカンは半馬身ほどしか後退しておらず、しかもその後に5着まで差し込む脚を見せた。ボワラクテと一緒に外へ流れて行けば落馬などせずにすんだはずだ。強引に内へ逃げるか、勇気を出して躓いた馬の後方を通って外へ逃げるか・・・多重事故の中でこの判断は難しいし、常識的に考えて内だろう。

外に行ってナスノセイカンの後方につけたならばおそらくダメージはなかった。失速はさせて競馬を放棄することになるが馬は助かる。けれどナスノセイカンが1馬身半の後退をしていたら、間違いなくヤマニンボワラクテは巻き込んだ落馬事故が起こり、そこからマイネルメダリストホッコーブレーヴにまで波及する可能性があった。そのリスクを飲み込んでなお外に活路を見出す常識はずれのジョッキーはいないだろう。め組の大吾じゃないんだから。

内へ向かうというのは、表現が悪かった。外に弾かれながらも現状の位置を保つ、この選択は常識からして正しい。ルメールほどのジョッキーであれば4角へ侵入する前に後方馬の進路は確認しているだろう。多重事故の芽を摘んだ選択だ。

発端は間違いなく蛯名のグレー斜行だ。数々のG1タイトルを得た絶妙の斜行技術である。しかしヨシトミ先生が大げさに立ち上がって失速していればこの事態はなかったろうし、また蛯名が制裁対象となっていた可能性もある。そのくらい際どいタイミングで進路を塞いでいる。

またヨシトミ先生がそれに乗じて大知に進路を要求した側面もある。タンタアレグリアが外に向かった分だけクラリティスカイも外に向かっていて、このインベタを進んでいた2頭が直線に入ってからは内に2頭半のスペースを得ている。クラリティスカイは3頭分。

内からスペースを無理に確保するという考えはプロの発想ではない。内を捌く上で承知すべきリスクを他馬に負わせるそのやり方は人間のものではない。だが勝負師の所業ではあろう。馬を人を殺して一流か。

いつもインで塞がって馬を勝たせられない福永祐一騎手の人間っぷりを思う。

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