砂時計のくびれた場所

競馬の血統について語るブログ

Danzig配合論 Chief's Crown編

次の題材はCheif's Crown。

http://www.jbis.or.jp/horse/0000337339/pedigree/

Danzig直仔の中では数少ない中距離馬で、その数少ない中から唯一サイアーラインを伸ばしている異色の存在・・・それがChief's Crownだ。その産駒にチーフべアハート、孫の世代には20世紀最後の「ダービー馬」にして凱旋門賞勝ち馬であるSinndarがある。ちなみにDanzigは長命な種牡馬でSinndarの同世代にはBCマイル勝ちのWar Chantとハリウッドダービー勝ちのBrahmsなどがいて、アメリカ競馬の回転力とDanzigの化け物っぷりに唖然とさせられる。あいつらポンポン勝たせてポンポン種牡馬入りさせるからな。

そのChief's Crownの特徴は母父にSecretariatというボルキロ界の大物にして最強ベルモントS勝ち馬を置いていることだろう。ナスキロやボルキロを取り入れることによってDanzigは中距離馬を出すわけだが、そのアシストにやはりナスペリオンとLady Angelaニアリーが不可欠だ。Sabzy≒Lady Angela≒Heliopolis≒Ponderが発生し、Sabzy≒Lady Angela間ではPretty Polly弄りが行われている。今も昔も中距離配合の必殺技はPretty Pollyなのだな。

また例のごとくBull Leaの血があり、例のごとく「4分の3と4分の1」が雨あられにある。ヤマニンパラダイス=Bertoliniとやっていることが似ているし血統要素も被ることが多く、例えばAlydarの母父On-and-OnとChief's Crownが近親でTwo Lea=Twosyの全姉妹までを同じくしていて、AlydarとT.V. LarkもWashoe Belleの牝系で近親。だから中距離と短距離の違いはどこかって話になると攻めるべきポイントは多くない。

・ナスペリオンの本数

・ボルキロの有無

Native Dancerの有無

・Pretty Polly弄りの有無

Tourbillonの有無

パッと見る限りではChief's Crownには短距離的な要素がない。代々重ねられているのは中距離血統で、母母Chris EvertはCCAオークス(12F)の勝ち馬で母父Secretariatが米三冠馬だっていうんだから短距離の匂いなど微かにすら感じないわな。だけれどそれはヤマニンパラダイス=Bertoliniも一緒なんだわ。AlydarAffirmedの準米三冠馬Never Bendは歴代トップクラスの中距離馬Mill Reefの父、War Admiralは言わずとも知れた米三冠馬よ。

すると上の項目の内で最も怪しいのNative Dancerだろう。特にRaise a Nativeは短距離血統だものな。

Raise a NativeNative Dancerの母Geishaを増幅した配合で、具体的に何をクロスしているかと言えばアメリカ競馬史上最速にして最優秀種牡馬であろうDominoだ。6歳という若さでこの世を去り残した産駒は僅か20頭。しかしそのうち17頭が出走し15頭が勝ち上がる超高打率を誇り、その中から名種牡馬CommandoとSweepの母となるPink Dominoを輩出した。後継となったCommandoも父同様に若くして亡くなるのだが25頭の産駒からColinとPeter Pan、Ultimusを輩出して夭逝の父系を繋いだ。(Wikipedia参考)

Raise a Native単体ならばSweepの強調という解釈も出来て、この名馬は母父として二頭の米三冠馬を輩出したチートであるから強烈な短距離力を伝えるとは思えない。しかしDanzigが関わると少し話は違って、Geisha≒Raise YouのBroomstick×Domino×Fair Playを主軸としたニアリークロスへDanzigの母父Admiral's Voyageが関わってしまうわけだな。

Geisha 

Raise You

Admiral's Voyage

DominoってのはCommandoやSweepを通じて伝わってもそこまで頑固な短距離血統でもなくて、Fighting Foxの全兄には米3冠馬のGallant Foxがある。Bull Dog=Sir GallahadとCommandoの出会いは極普通のニックスで短距離力を伝える配合というわけではない。

しかしUltimusは例外であって、これはDominoを強く伝える配合馬だ。だからこそイギリス血統やSir Gallahad=Bull Dogのお伴として優秀であったのだろうが、これがクロスされると脇に控えていたSweepさんやCommandoさんとの立場が逆転してしまうわけだな。Domino力が一番強いのは彼だから。

また短距離遺伝子の父とも言われるNearcticの母親とHeilopolisはニアリーの関係であるし、それの経由がUltimusの血を継いだスプリンターOlympiaなのが実に困る。Danzigのスプリント力ってのはOlympiaから伝わっているだろうし。Domino的なUltimusを弄らないことがDanzigの中距離化には欠かせないってことになる。

そうなるとAdmiral's Voyageを許容したPetitionerを見習って英血統を持ち込んだ方が良い。適役であったのがPrincequilloだ。これはざっくり言えば「アメリカに送り込まれたイギリスの長距離血統」かね。この父系は色々とあるんだが大雑把に言えば英血統、少なくとも欧血統だ。

長距離馬であったことが敬遠されて初期は種牡馬としての人気がなかったとまでWikipediaには書かれていて、人気種牡馬となるきっかけを作ったHill Princeの配合を見るとSunstarとUltimusの血が光る「長距離×短距離」。母のスピードで突っ込むイメージが強いからやはり長距離馬としてのスタミナは産駒にも受け継がれている様子だ。Something Royalもまた母ImperatriceがテストS(7F)やフォールハイウエイトH(6F)を勝ったスプリンターなので配合の形には変わりがない。

その産駒Sir Gaylordは父Turn-toの影響が強い短距離血統で、その後継であるSir Ivorの配合を見てもPrincequilloのスタミナを伝える様なものには見えない。異系としての働きしかしていない様子。しかしその弟Secretariatは父系は残さなかったが母系では絶対強者として君臨し、血統としてはスタミナをよく伝えた。この傾向はPrincequilloそのものであり、その後継種牡馬・・・ではないけど後継者なのだろう。

なのでChief's Crownは「父短距離、母父長距離」の配合と言える。母系にはナスペリオンとかPretty Pollyなんかがあってスタミナ化のしやすい仕組みになっているし中距離馬に出るのも不思議ではないな。

走りの方は前駆と回転力はDanzigのスプリント力に影響されてるが、後躯と靭やかさと胴の伸びなんかには母系の影響が見られる。なかなか靭やかに動いてくれるし後躯の前方向への踏み込みが非常に深い。映像の荒さも手伝ってカンガルーが走ってんのかと思うくらいだ。Secretariatの影響が強い前傾姿勢の馬体だからこその踏み込みなのだろうが日本の芝を走らせたら上に飛び上がりそう。

日本で最もChief's Crown的なのはディープスカイなのだが踏み込みはそこまで深くなくてサンデー的アグタキ的な靭やかさを感じる動きだ。しかしその産駒の代になるとSecretariat的Chief's Crown的なスタミナを感じさせる緩慢さがある。栗山求先生のコラムではダート血統として再評価を促していて、アグネスデジタルのように米血の回転力をDanzigに脈絡させる方法がベターなのだろう。結局は回り道をしてからのDanzig王道のスプリンター的配合へ動いていくわけだ。それはRaise a NativeMr. Prospectorが歩んだ道でもあり、スプリンター血統を一発の大技で中距離へ誘導した後にもう一度スプリンターを出そうという流れ。Danzig弄りでディープスカイがダートスプリンターの後継種牡馬を出したのならば、母系へ入って緩慢化したディープインパクトは恰好の獲物だろう。

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