砂時計のくびれた場所

競馬の血統について語るブログ

Norsemanの話

モーリスの配合において最もユニークなのは、母メジロフランシスの持つNorseman5*5のクロスだろう。この血が非常に面白い・・・面白くするほどには理解できないが、なかなか愉快な血統をしているので、一つ一つ書いておく。

まずNorsemanであるが、Sind産駒の姉がある。馬名をSans Taresと言い、息子にWordenがあり、また娘の娘の息子・・・ひ孫にLe Fabuleuxがある血統だ。度々「Worden≒Le Fabuleux」と表記されるWild Riskの息子たちである。

モチジュン先生がWild Riskについて言及する場合には2パターンある。

一つ目は気性に関するところだ。Wild Riskクロスの馬はカッと燃える気性であるようで、それは母父Wild RiskBlushing Groomにも受け継がれている様子。ダイワメジャー黄金配合においても、この燃える気性を表現した先行馬がより良いとされている。

二つ目は切れ方。「Wild Risk的なナタのストライド」だとか「母がPrincely Gift系✕Bold Ruler系で自身はWild Riskのクロスなので前肢がしなやかにきれいに伸び~」といった風に表現されておられる。

Rabelais直系にして母父Blandfordの配合馬、それがWild Riskなのだから靭やかに動いて然るべき。それで燃える気性がウンタラカンタラーってことなので、フジキセキの化物イスラボニータみたいなやつだったのではないか。靭やかに動くくせに何らかの拍子にビュッと気性的に弾ける。アクションが大きいとまでは言わないにせよ、あのストライドでビュッと動かれると不安になる。

Worden≒La Fabuleuxはそういった大きなストライドを御する仕組みが組み込まれていると考えられ、それはおおよそSolarioとTeddyに頼るところが多いかと思う。

さて、次にNorsemanの父Umidwar。これは日本の血統とも馴染み深いことが知られていよう。全姉Udajpurの孫にヒンドスタンがある血統で、もっと掘り下げていくとWild Againも出てくる。ヒンドスタンと言えばBois Roussel✕Solarioの配合形であるから、上のWorden≒Le Fabuleuxと繋がりがある。この二頭はSolarioの後継種牡馬Sindを抱えるのだ。

Umidwar自体ポピュラーと言うべきか悩みはするが・・・強豪馬は大抵この血を抱えているのではないかな。アイルランドオークス馬Uviraはその牝系からIron Ruler、ゲイメセン、Raja Baba、Sauce Baut、フォティティン、Lemon Drop Kid&スタチューオブリバティ兄弟、Wolfhound、そして・・・Summer SquallA.P. Indy兄弟。

ポピュラーというか、近代において無視することの出来ない北米の名繁殖、名血統と言えるだろうUviraを輩出した功績があるのだわ。

Norsemanもまた母系に入って美味しい血統であり、カーネギーとその母Detroitを輩出するに至り、この二頭はつまり母子凱旋門賞制覇を成し遂げた名血統。モンタヴァルもKGⅥ&QESの勝ち馬であり、Norseman自身は中長距離の名血統であったことが伺える。

北米でBold RulerやNureyev、Mr. Prospectorなどと出会い、上記のUvira牝系馬が輩出されたことは、欧州の根強い底力がUmidwarにあったことに由来するのではないか。

Uvira牝系の話をすると長くなる。例えばゲイメセンの様に「Hyperion系✕Sir Gaylord」の配合を取るのは珍しく、この組み合わせはNorthern Dancerありきなものだ。(Northern DancerはAlmahmoudとLady Angelaの組み合わせ)

現代競馬においてHyperionとは古き良き英国血統であり、この中長距離~長距離のスタミナを背景にスピードを組み込むのがセオリーである。多少の変革は訪れているものの、大筋ではまだまだ変わらない。

けれどA.P. Indyなんかは非Hyperionの配合だ。Storm CatやChief's Crownと同じ「母父Secretariat」のスタミナに頼った変態配合馬であるが、DanzigStorm BirdほどにはSeattle Slewは優れたスピードを伝えない。どちらかと言えばHail to Reasonを通じたスタミナが強い。

であるからして母父A.P. Indyカレンミロティックは世にも珍しい米血統のスタミナで春天を好走していると言えるだろう。また北米のリーディングサイアーTapitMr. Prospectorのクロスを持っているのも、このスタミナありきのスピード補完であろうし、サンデーサイレンス・・・特にフジキセキとの配合が面白い馬なのかもな。

長くなる、と前置きしながらも実際に長くしてしまうミス。けれどUvira牝系の特徴をよく表しているのがこのTapitの立ち位置で、彼は母系にNijinskyを1本持つだけの「2分の1非ND」種牡馬である。

Mr. Prospectorのスピードと書いたが、多くの語弊を生みかねない。Seattle SlewにLa Troienne絡みのクロスがあり、それもMy Chamer✕Buckpasserという濃密なものである。ラトロのスピードにはミスプロを重ねるのがベター。理屈はわからんっ!

単純にスピードを組み込むのであればLyphardだとかDanzigを使うのがよく、ましてや非NDであればなおさらだ。けれどそれが失策であることが一つの観点から考えられる。

Northern Dancerは「Lady AngelaとAlmahmoudの組み合わせ」である。つまりナスペリオンとやっていることは変わらない。Nearcticのスピードを理想的な中距離血統へ誘導したのは上記の「Lady AngelaとAlmahmoud」がナスペリオンのニックスに限りなく等しい形を取っているからだろう。

例えば非NDのナスペリオンクロス馬などがいたとして、それが見事な走りをするかと言うと・・・いささか怪しい。逆にNasrullahHyperionの血統を持たない馬にNDを組み込んだところで大きな成果があるかと言うと・・・そうでもない。でもそんな馬ありえないからね。

つまり非HyperionA.P. Indyにいきなり「ほら名血のDanzigさんだよ!」と与えても大した効果がないのだわ。Bold RulerSecretariatの親子、そしてBuckpasserのおっさんはDanzigの登場に興奮しそうだ。けれどSeattle Slewはそうでもない。世代交代の伺える悲しいエピソードが誕生しそうである。

おそらくLyphardも微妙である。Seattle Slewの好むND直仔と言えばSadler's Wells=Fairy Kingであり、Uvira牝系からするとNureyevもオッケーだろう。

A.P. Indy直仔において難しかったのはそのあたりだ。

Sir GaylordLyphard好きだけど・・・弟がうるさそう」

Indy Five hundred(ガーデンシティH)

SecretariatDanzig大好き。Lyphardもきらいじゃないけど。Danzig大好き。Storm Birdも可。」

BuckpasserDanzig大好き。出来ればMr. Prospectorがいいけど、ND直仔限定ということで。」

シンボリインディNHKマイルC

Seattle Slew「Sadler's WellsとFairy Kingが恋しい。」

→Music Note(CCAオークス

A.P. Indy「それならDeputy Ministerとかでも大丈夫なんじゃない?」

Rags to RichesベルモントS勝ち馬)

この通りNorthern Dancer系を母父に迎えた場合の種牡馬成績は著しくない。救いはRags to Richesで、これはBest in Showのひ孫にあたる名血牝馬。Best In ShowはSex Appeal(父Buckpasser)の母でもあり、Sex AppealからはトライマイベストEl Gran Senorが出た。またSex Appealの妹Monroe(父Sir Ivor)からはXaarが。

結局A.P. IndyMr. Prospectorとの配合を選んだわけだが、さり気なくNijinskyも一緒である。そしてTapitA.P. Indyを「4分の1異系」とした配合を取った。A.P. Indy爺ちゃんは病院のベッドで抑制されている。

北米血統の中でこれほどの緊張と緩和を施すとはアメリカ恐るべし。

なんの話だったかなぁ。

つまりその、Northern Dancerを取り込むにも1つ2つ段階を踏む必要がある。それをクリア出来なかったのが日本にもあった古き良き血統であろうし、メジロとシンボリはモガミという馬を得てなんとかNorthern Dancerの導入に成功した。

どうやらNorsemanはUmidwarの名牝Uviraほどには頑固ではなかったらしく、きちんと4代後にはNDを取り込んでいる。それはカーネギーも同様であり、メジロモントレーカーネギーは同志とも言うべき関係。

なので自然と配合は決まる。Sadler's Wells✕RivermanLyphardSicambreを入れるのだから綺麗なフランス配合だ。

さて、スクリーンヒーローの話は次回に回す。

最後に、「血は水よりも濃し」にて望田潤先生がカーネギーのラトロ肩について触れられたことを。ラトロ肩は冬場だと歩様がゴツゴツしたものになりやすいので、夏に活躍する馬が多いのだという話をスターペスミツコからされている。

夏の札幌記念へ出走するモーリスには好材料であるので、これはモーリス本命の前フリだろうなぁと。ヌーヴォレコルトが相手ともなると辛い戦いになるが、鞍上がモレイラなら間違ったことはしないはず。

ただ二頭ともスローが苦手・・・というのは札幌記念で心配することではないけれども。まぁ怖いのはそこだろうか。けれどアレだよな。このレベルの馬が札幌記念を走るということになると、外を通ってヴィーンと走った方が楽なんだよな。馬場も外の方がいいし、塞がる心配もないし。

それはハープスターゴールドシップの年と同じこと。この二頭はともに追い込み馬であったからそれはもうド派手にぶん回して来たけれど、今回は先行馬が二頭だ。おそらくナリタブライアンVSマヤノトップガン阪神大賞典みたいな風になるんじゃないかな。

うーん、吉田隼人だと役者不足の感が。武豊とモレイラのカードであったからね。残念だ。

[fin]