砂時計のくびれた場所

競馬の血統について語るブログ

Soaringは捕まらない Apelle論

Soaringから派生した名血統がGraceful TouchとBallade。前者はグラスワンダーを輩出し、後者は・・・別に書いておく。

(Balladeの一族~ダノンバラードヴィルシーナシュヴァルグランヴィブロスシングスピールグランドオペラRahySaint Balladoレディバラード、Sligo Bay、Devil's Bag、ダノンシャンティ、Mazzo Soprano、フサイチセブン、ロードアリエスフレールジャックマーティンボロ、Claremont)

繁栄度合いは明らかにBalladeの一族が上である。こればかりは覆らない。だがグラスワンダーも馬鹿にならない。これはグラスワンダーがApelleに対して異常なまでに真摯な配合であることが理由。

異常というからにはやはり問題となる側面も大きい。その証拠にグラスワンダーは血統としての成果を残したものの種牡馬としての価値はさほど高くない。異常なApelleへの(ニアリー)クロス群を緩和する術はそうそうなく、大きな緩和手段であるサンデーサイレンス(非Apelle、非Sardanapale)とてHail to Reasonの強いクロスを招くのだ。

だからスクリーンヒーローダイナアクトレスという名牝と一助を以ってなお、ジャパンカップの1勝に留まったのは仕方がない。そして結果論として、そのスクリーンヒーロー種牡馬として大成したのも当然のことだろう。緊張と緩和の観点からずば抜けている。

それほどまでにApelleの影響力は強大で、それは名血Ribotを介しているのだからなおさらだ。だがそれにしたってこの影響力はおかしい。

であればSoaringの時点で何らかの仕組みがあるはず。単純なクロスで名血統が作られるなんてことはない。考えられるのは、Teneraniの母Tofanellaなどに見られるFlorizel=Persimmonの近いクロス。あとはSardanapaleの母Gemmaに対してニアリーの関係を取るLadasの血を随所にクロスすること。

Titanite

Ladas×Gemma

Titaniteはグラスワンダーの父Silver Hawkの母母父Mat de Cocagneの母父Fastnetの母母にあたる。もう少しわかりやすく見るためにニアリー同士の血を架空血統表にしたのが2番目のリンクだ。強いクロスが伺える。

DanzigがBeau Pereに対して強いニックスを発揮するのはこれが原因ではないか・・・と考えている。ちなみにBeau Pereには一つ上の姉があり、名をBelle Mereと言う。これは血統マニアにおなじみ、サンデーサイレンスの6代母である。

つまりスクリーンヒーローの代においてもLadas~Beau Pereの精神は受け継がれていて、Sardnapaleを持たなくとも柔らかくサンデーサイレンスグラスワンダーを包み込んでいるのだ。父祖を同じくし、配合の起点をも同じくする美しい関係である。

大まかな意味に於いてGlorious Songサンデーサイレンスとするのはここらへんの理由も大きい。他のところでApelleを呼び起こす仕組みが欲しいところであるが・・・実は大抵のGlorious Song牝系馬はその仕組みを備えているのだ。

シングスピールの持つUmidwarクロスもその一つ。Danzigに対するBeau Pereがあれば、Mill Reefに対するUmidwarがある。これもまたLadas持ちの血統であり、Apelleを強く刺激する仕組みではないにせよ、継続の形は取っているのだ。

ハルーワスウィートもBlushing GroomからUmidwarを得ていて、またSardnapaleクロスのMr. Prospectorと、父母父ApelleのRibotを抱えるMachiavellianが父。グラスワンダーほどではないにせよ、ある程度はやるべきことをやっている。

してタイトルの話になるのだが、このSoaringの名血を持つ馬は登坂後に捕まらないタイプが多い。これを登坂後に伸び返すと見るべきか、それとも登坂前までに余力を残していると見るべきか、とりあえずこの2つの観点でよいだろう。

差しに構えてもその利点は健在であるから便利な話。シンハライトにはその美点がよく表現されていて、オークスローズSも坂を駆け上がってからの脚で一閃に斬り落としてる。

前から粘るパターンは「例に暇がない」を地で行く。リラヴァティマーメイドSヴィルシーナのVM2連覇、ローエングリン中山記念ロゴタイプ安田記念メイセイオペラフェブラリーSタイキシャトルスプリンターズSワンアンドオンリー神戸新聞杯レッドスパーダ京王杯SC、などなど。しかし最強はグラスワンダーの1999年有馬記念だろう。まくり切れずの横一線から大外一気のスペシャルウィークに対して粘り切ったあの内容は非凡。いくら急坂小回り適性のアドバンテージがあるとは言え、あの展開でG1複数勝ち馬が武豊を背に差してきたら普通は敗れる。有馬記念における名勝負と言えばこれだ。

今年の有馬においてグラスワンダーを探すことは難しい。いたらビビる。

しかし逆説的に危ない人気馬を探すことが出来るだろう。例えば、そう、キタサンブラックとか。昨年は3歳の身で3着まで逃げ粘った。しかし登坂後の鈍り方はApelleらしいものではない。一応ジャッジアンジェルーチを介してGood Dealを持つのだが。

それだけにゴールドアクターの気持ちのいい登りっぷりが際立つ。そしてそれを上回る勢いで突っ込んできたサウンズオブアースがより気にかかる。調べて見るとネオユニはApelleを持たないもののSardnapale×Ladasの組み合わせをクロスしているのだ。

ざっと洗っただけなので何本かは覚えていない。おそらく父母間で3本のニアリークロスが発生しているはずで、この馬の登坂巧者ぶりを説明できるかもしれない。

[追記]

Haloクロスで成功しているのはサンデーサイレンスMachiavellianGlorious Songの間におけるものだけで、大抵の場合においてサンデーサイレンスとその他2つという形を取る。

非Sardnapaleのサンデーサイレンスに対してSardnapale祭りの2血統が非Sardnapale血統であるHaloのクロスを掛けるという話だ。MachiavellianGlorious SongはSardnapaleの観点からHaloが緩和の立場を取っているので、このクロスは大概にしてサンデーサイレンスの靭やかさを下支えするだろう。

もしかするとサンデーサイレンスにとってApelleとは避けて通れない存在であるのかもしれず、非Sardnapaleを貫いたディープインパクトが上記の血を取り込んだのは自然なことなのかもしれない。

けれどそれだけでは説得力が足りなくて、もっと浅いところで影響を残していることを証明しなければApelle論を締められない。どうにかして主要血統への脈絡を見つけなければならず、その結果はきっと有馬記念予想へ繋がるはずなのだ。

けれどそれは北米血統史を探ることに似ている。果たしてそれは年末までに間に合うのだろうか。

[fin]