・前置き
日本競馬にある以上はHalo≒Sir Ivorのスピードを取り入れることを避けられない。それなら最高の血統から取り入れるべきであり、ディープインパクトの血を大急ぎで導入すべきだろう。その選択として本馬を選ぶ理由は多い。
・芝のHyperion祭り
・みんな大好きドイツ血統
・Wild RiskとFair Trialの導入
・非La Troinenne
・非Tom Fool
・4分の3非Blue Larkspur=4分の1米
前回、エピファネイア・リオンディーズ兄弟の配合を例に出した。
リオンディーズ~Sadler's Wells≒Nureyev、Nijinskyクロス、マルゼンスキー≒トライマイベスト
エピファネイア~Roberto×Seattle Slew×サンデーサイレンス×Sadler's Wells
この素晴らしい組み合わせを全く別の種牡馬から見せることがシーザリオの非凡が証明される。そして、この配合を数年の内に実践した関係者の慧眼こそ「愛」というものだろう。そんなことも書いた。
それに習って俺も愛のある「4分の4」を組むべきだと決心した。ワールドエースを相手から外し、課題の繁殖牝馬を見尽くした。それこそ朝から晩まで、あるいは晩から朝まで。種牡馬のことなんて考えず、この1頭の牝馬ばかりを考え尽くした。ここまでやったら血統表で勃つんじゃないかと心配したが、悲しいことに俺はそこまで突き抜けてはいなかったらしい。
そうして決着がついた。ヴィットリオドーロの段で書いたことを実践するだけなのだと。新要素を取り入れて、それを表現するしかない。サンデーサイレンスに働いてもらうことにした。
・ニアリークロス
ニアリークロスの意義はなにか。似通った血統を交わすことにどういった意味があるのか。よーくよく考えてみると、それが作用する可能性は多くない。いくらサラブレッドがサラブレッドであるとはいえ、インブリードを過信しすぎた考えだと言わざるをえない。
それでも実際に効果が現れているのは、似た血統の周辺もまた似ているからだ。例えば、Sun Princess≒KhaledとしたHail to ReasonとMountain Flowerの関係。Bull Dog≒Sir GallahadやMan o'War、Chaucerクロス群などなどを共通項としている。
しかし似ているだけではただの相似配合に過ぎず、直接のインブリードを組み込んだ方が相似は取りやすい。ニアリークロスの特長は血統構成や働きが近くあっても別の血統であることで、そのために新要素を取り入れやすいことだ。上の例で言えばSon-in-LawやBlue Larkspurといった違いが見られ、これらがお互いにとっての新要素として働く。
Hyperionの集団にとってBlue Larkspurとは取り込み難いものであり、非Hyperionの集団にとってはSon-in-Lawとは扱いづらいものである。しかしそれらがSun Princess≒Khaledの結びつきによって名血統サンデーサイレンスを作り上げた。わりと驚嘆すべき事態である。
ニアリークロスは結果論にすぎない。濃かろうが薄かろうが作用さえすればニアリークロスだ。むしろ、作用するのであれば、薄すぎるくらいが良いだろう。現代日本競馬において最も薄く最も猛威を奮っているニアリークロスには、Turn-to×Mahmoud×Sir Gallahad×Pharamond×Man o'War×Ultimusを共通としたHalo≒Sir Ivorがある。お互いにBlue Larkspur、Princequilloの新要素を伴う。
Halo≒Sir Ivorの始まりは北米競馬で牡馬と争った名牝グッバイヘイローだろう。Halo×Sir Ivorというド緊張の配合であり、どちらかと言えば相似配合の感が強い。BuckpasserからBlue Larkspurを引いて父母間クロスとなっているからだ。個人的な感想であることを強調して、これを血統の傷であるとしたい。
ディープインパクトもある意味ではHalo≒Sir Ivorを幹とした相似配合と言うべきだが、普通に考えると相似でもなんでもない。
ニアリー群
・Gulf Stream≒Lady Angela≒Aurora5×6*6
・Halo≒Sir Ivor2×4
・Cosmah≒Natalma3×5
共通する血統
・Bull Dog=Sir Gallahad
・Fairway=Pharos
・Pharamond=Sickle
・Mahmoud
・Son-in-Law
・Solario
・Rabelais
・Aloe=Foxlaw
・Ultimus
共通しない血統=新要素
・Blue Larkspur(サンデーサイレンス)
・Hurry On(ウインドインハーヘア)
・Ksar(ウインドインハーヘア)
・Clarissimus(ウインドインハーヘア)
流行している血統をきっちりと固めている一方でBlue Larkspurという外すべきところを外しているところが良い。ある意味では相似としたが、それは血統の共通項としてではなく、血統の在り方として似ているのだ。Haloに対するMountain Flowerの、Alzaoに対するBurghclereの。
HaloのBlue Larkspurに対してMountain Flowerは無関心を決め込んだし、またAlzaoのPrincequilloにBurghclereは無関心だった。一方でそれぞれはバックボーンとする血統を似通わせていて、脈絡を欠かさない。良い人間関係にも見える。
この良い関係を次代にも受け継がせることは難しいが、トップクラスの産駒はそれをやっているのが実情である。そして、それらの取り入れた新要素というのが、Bold RulerとTourbillonなのだ。それはブラックタイド産駒のキタサンブラックにも通じるものであるし、サトノダイヤモンド、ジェンティルドンナ、マカヒキ、トーセンラー=スピルバーグ、キズナ、ショウナンパンドラ、ディーマジェスティ・・・例外はシンハライトやディープブリランテくらいかな。少なくともTourbillonは取り入れる。
Raise a Nativeはまだマストではないかな。次代を見越すならば非Raise a Nativeで非Nasrullahであることが望ましくあって、それを満たした後継種牡馬というのが、ワールドエースなのだ。ようやくこの馬名が出た・・・。
血統から見える特徴をまとめた。
ワールドエース全体
・Blue Larkspurの主導権は至ってHaloのまま
・Princequilloのも同様。
・Donatello継続
・Hyperion×Chaucerの継続
・Stymieクロス
マンデラ単体
・Masettoクロスを筆頭にドイツ血統にまみれている
・4分の3Friar's Daught(DasterとBahramの母)
・4分の3Apelle≒Himalaya
・新要素Eight Thirty≒War Relic
わざわざFriar's Daughtという血統に注目したのは理由がある。この父Friar MarcusはFeolaの父でもあり、Burghclere内でもクロスされている血統なのだ。サンデーサイレンスにはない血統であるので、ディープが「4分の3Ultimus、4分の1Burghclere」であった様に、ワールドエースも「4分の3Friar Marcus、4分の1サンデー」という風になるのだ。
そして、その歩みは似ている。特にBahramを中心としてお互いに相似にあると言えそうだが、Big GameとPersian Gulfに別れた時点で方向性に小さな差が生じた。以下にまとめる
共通
・Solario
・War Relic≒Eight Thirty
・Apelle≒Mimalaya
・Masetto
・Ticino
・Fair Trial≒Riot
・Tracery
・Tourbillonクロス
・非Donatello
・Swinfordは2本だけ
・Pretty PollyはCappielloからの1本だけ
・Hyperion×Swinfordの組み合わせを持たない
・Hurry Onクロス
・Teddyは1本だけ
・ドイツ血統多め
Mandellicht
・Donatelloクロス~Alycidon=Acropolis
・Swinford祭り
・Pretty Polly祭り
・Lady Angela≒Aurora≒Tudor Minstrel
・非Hurry On
・Teddy祭り
・米血統多め
一言で表せば、Acatenangoの方が中長距離的でMandellichtの方が短距離的だと。またBe My Guestは厳しい気性を伝えがちで競馬が荒い。ミッキーアイルの様に逃げるか、アドマイヤデウスの様に控えてからまくるかの2択だろう。
ワールドエースの現役最高のパフォーマンスと言えばマイラーズCだが、若葉Sもかなりのもの。阪神2000mの稍重でメイショウカドマツが武幸四郎を背に逃げた。スローからのビュッと切れたもの勝ちの展開ではあったが馬場が相当悪かったらしく公式ラップの終い3Fは11.9-11.9-12.6。これをワールドエースは福永祐一を背に大外ぶん回しの12番手から追い込んだ。負けフラグバリッバリのレースだったが最後は抑え気味に入線して逃げ残ったメイショウカドマツに2馬身差をつけた。
メイショウカドマツはゴールドアクターに一泡吹かせた道悪巧者である。ワールドエースはそれよりもよっぽどひどい状況から楽々と差し切ったのだ。なんだって鞍上が福永で大外ぶんまわしだ。今はそうでもないけれどこの頃の福永のぶん回しは悪名高い。
それを許容するほどに、あるいはそうせざるを得ないくらいにワールドエースの脚はズブく、同時に、2分04秒4という馬場の悪い状況で辛抱強く脚を使い続ける荒い気性をこの時期に見せていた。今では常識となった「一生懸命に走りすぎるディープインパクト産駒」の典型だっただろう。
そうして脚元を壊し、ベストを見せることなく引退してしまった。この類の馬は気性が荒いうちが華で、5歳まで長期の療養を強いられたワールドエースには闘争心などなかったはずだ。故障明けに武豊を迎えた時点で難しい気性がなかったことが分かるし、その後に迎えた騎手たちは動かしていくタイプばかりだ。ズブい馬の扱いである。
もしも皐月賞でゴールドシップと一緒にワープしていれば接戦だっただろう。流石に勝ち切るまでのものはなかったと思うが、接戦に持ち込む気性と道悪適性を持っていたはずだ。あの競馬ではドイツのスタミナしか使っていない、福永騎手らしい優等生な競馬である。
・課題の繁殖牝馬について
ワールドエースがディープインパクトから何を得て何を伝えるのかを考える前に繁殖牝馬の持つ要素についてまとめておきたい。
この血統が中庸的であることは先生もコメントされていて、芝ダートを問わないことに間違いはない。実際にヤマイチジャスティも芝と砂の両方を走っている。当代においてはエンパイアメーカーがオンになって砂を走る配合だろうが、次代にサンデーを取り入れるだけで芝馬の輩出は可能だろう。ゴールドアリュールをつけても芝に出るかもしれない。
それどころか距離すら問わないかもしれない。エンパイアメーカーのダート適性の多くはIn Realityに依るものだが、それは大体Nijinskyで芝へ転ずることが可能だ。ダンスパートナーからはフェデラリストを、ダンスインザムードからカイザーバルを輩出している。サンデーとNijinskyが絡みさえして、あとは余計なことをしなければ芝に出るのだ。
しかしPulpitはその余計なことをしている。あろうことかBold Rulerまみれにし、あろうことかBuckpasserを継続し、あろうことかMr. Prospectorをクロスした。何をしてくれているのかと。
Pulpit自身もサンデーと混ざることで簡単に芝化する血統だと思うが、エンパイアメーカーとの間に共通する血統はダート適性を増幅するようなものばかり。特にこの2血統間におけるBold Rulerクロスというのは悪手なのか妙手なのか怪しいところ。エンパイアメーカーはBold Rulerを弄ってなんぼの種牡馬(American Pharoahは4分の3Bold Ruler)であるけれど、Tapitは強い緊張を持つことからアウトにする傾向がある。名種牡馬TapitからしてBold Rulerをクロスしていない。
次世代においてはこのあたりに触れないことが芝馬輩出において重要だと考えられ、その上でBold Ruler×In Reality×Buckpasserを活かすように配合を考えたい。
・ワールドエース その2
この馬が伝えると考えられるものは二つ。
「Hyperion×Fair Trial」の粘着力
「Lyphard×Be My Guest」の気性
嵐猫などを使えば外回り向きの靭やかさを得られると思うがディープとのニックスほどには切れはしないだろう。日本競馬に向いた芝のスピードはあまり伝えないはずなのでHaloクロスが求められる。また回転力の底上げにSpecialな2頭やDanzigも有用だろう。緩慢な種牡馬ではないからそこそこでいい。Cozzeneなんかの靭やか血統を取り込むのも有効かと思う。
けれど前駆を靭やかに作ることは少し微妙であって、ドイツ血統を振り絞るためにはアクションそのものは小さいほうが良い。けれど体全体の靭やかさは日本競売おいて必須である。その微妙なアレコレを助けてくれるのはいつも「Mr. Prospector×Buckpasser」だろう。
・まとめ
ツァーリーナというのは一つ完成された血統であるから、下手にインブリードを施しても格好がつかない。なので構成血統に対してアウトを取ることを第一に考え、その果てにNasrullahとRoyal Chagerの差異を使ったこの配合へ至った。
非NasrullahのワールドエースはHyperionやSolarioの影響が強い種牡馬に出ていて、ねっとりとした芝適性を伝える。今回の配合であればイトウみたいな馬が出てもおかしくはなく、今ひとつ日本の芝に順応できない可能性がある。Halo≒Sir IvorをCequilloやBold Reasoningで弄っているとて楽観視は出来ない。
また初志貫徹したことにSun PrincessaのApelle6×6弄りがある。スニッツェル(Straight Dealクロス+Ribot)、ショウナンマイティ(Ribotクロス)、ヴィットリオドーロ(Straight Deal+Ribot)と投稿した案は全てApelle弄りだ。ワールドエースはRibotでもStraight Dealでもなくドイツ血統に頼んだ部分が大きい。Surumuが「4分の3Apelle≒Himalaya」で、Mandelaugeも「4分の2Apelle≒Himalaya」である。Fair Trialの使い方などにも共通点があり、Sun Princessaとマンデラの繋がりは存外深い。
またFriar Murcusを渡り役としてディープインパクトとマンデラの脈絡を考えたが、これはツァーリーナとの間にも有効である。Pulpitの直牝系をたどればFeolaの名があり、途上にてDastur持ちのHonest Pleasureを組み込んでいる。そして、Bold RulerとTom Foolを繋ぐ要素にPompey=Laughing Queenがあると書いたが、この母父CorcyaとFriar MurcusはCyllene×Persimmonを共通としてニアリーの関係。
Corcya≒Friar Murcusはそんなに確認できるものではないから・・・まぁドイツ血統がBold RulerやTom Foolに近いビュッとした弾け方をすることの根拠として役に立ったらいいな、と。
・蛇足
Apelleの血にとってTom Foolは天敵であり、それだけにSilly Seasonなどはそれを取り入れた配合をしている。であるからこうしてBuckpasserまみれの繁殖にApelleまみれの繁殖をあてがうことは間違っていないはずである。
最も美しい有馬記念とは、Ribotが前のめりに粘るところをTom Foolが軽快に登ってくる展開である。グラスワンダーがバッとまくってジリジリジリジリと脚色を衰えさせずにいて、スペシャルウィークが最後の最後、ガーッと突っ込んでくる。タップダンスシチーが後方を突き放してネバネバしているところにシンボリクリスエスが一気の脚に突っ込んでくる、あるいはゼンノロブロイが番手からサラッと交わしてしまう。
そんな時代も過ぎて、今となってはTom Fool全盛とばかりにゴールドアクターやサトノダイヤモンドが勝っている。彼らは不幸だ。交わすに交わせないRibotの化物を知らない。中長距離を前のめりに踏破する愚直なRibotを。
有馬記念が大好きな俺としては、そんな馬がいたらいいなぁと思うのだ。ワールドエースにもツァーリーナにも愛を抱けやしなかったが、RibotとApelleとなりゃ話は別だ。きっちりと無責任を果たしたぞ。この配合。
[fin]