砂時計のくびれた場所

競馬の血統について語るブログ

今一度オルフェーヴル産駒を考える オルフェ本馬編

・前情報

牝系はErin。大抵の場合においてSir Gallahadを取り込んでまくりを打つ血統だ。遡ればCherokee Rose、Belle Roseといった具合で、Belle Roseの代表的な後継繁殖はSweepを輩出したPink Domino、Cherokee RoseからはStorm Catなどが見られる。その為ウイニングポストなどでも「チェロキーローズ牝系」とされる。

・限定されたSir Gallahad=Bull Dog(=Noor Jahan)

オルフェーヴルの配合において面白いのはSir Gallahad=Bull Dog(=Noor Jahan)の血がひどくピンポイントにしか作用していない点で、これらの血を持つのはNantallah、Victoria Park、Hail to Reason、Understanding、Edelweiss、Sanctus。

Sir Gallahad=Bull Dogの血は様々なニックスを持つが、著名なのはやはり北米・・・と見せかけてフランス血統とのもの。特筆すべきはFlembetteとの超巨大ニックスであり、NashuaやNantallah、Victoria Park、そんでEdelweissにそれは見られる。

親和性を言えばEdelweiss×ノーザンテーストよりもEdelweiss×Nantallahの方が上で、キンカメとサンデーのニックスが顕著過ぎるほどの例だろう。だがドゥラメンテラブリーデイなどの例を見ての通り、それにノーザンテーストが絡むと実にえげつない靭やかさが表現される。

北米を通したフランスの斬れを表現することに秀でた血統が揃っていると言える。これらを通してからTourbillonを表現するのが常道であり、世界的に見てもそれは間違いがないかと。直接的にこれを表現するとスタミナ化する傾向がある。

・Traverseの表現

イタリア的なTraceryの斬れとフランス的なRabelaisの斬れが合流したのがノーザンテーストという風にも言えるわけで、それを短距離的な英国のスタミナであるLady Angelaが支える。メジロマックイーンは英仏伊の斬れとスタミナを全て持った配合馬であるからノーザンテーストを中長距離化することにおいては至上の出来。

ただしTraceryという血統はサンデーサイレンス的ではない。大体はNorthern Dancerとのニックスを入り口としてNasrullah×PrincequilloRibot×Princequilloを導入していく。オルフェーヴルの場合はそれらをまるで取り入れず、ノーザンテーストに頼り切った現状。

Erinというまくりの血統はTraceryの名繁殖Traverseの仔Transmute産駒である。Traverseは他にTrafficを産んでいて、これがJeepの母でありHasty RoadとTraffic Judgeの祖母に当たる。なのでBest in Showの血統を引く・・・例えばキングカメハメハなどであるが、これがIrish Castleと反応してまくりを打つのもここの作用が大きい。(ホッコータルマエ

他にもブライアンズタイムなどはHasty Road持ちであるから、ディーマジェスティのまくりもこれで説明がつくことかと。Traverseのクロスは大概にしてまくりへ働く。

オルフェーヴルの価値

ノーザンテーストは「4分の3Tracery、4分の1Nantlma」、あるいは「4分の3Osiris≒Lady Angela、4分の1Natalma」である。これが3×4という強いクロスなので影響はひどく強い。

素晴らしいのはサンデーサイレンスメジロマックイーンがTraceryという在りがちな名血統を徹底してアウトとしている点であり、またこの2血統はひどくRabelais的≒フランス的な斬れを増幅したものでもある。

逆に言えばオルフェーヴルの血統においてTraceryを持つのはディクタス・ノーザンテースト・Prince Chavalier・Traverseの4血統だけである。普遍的に配置されたRabelaisに対して局所的なものであり、またダイナサッシュとエレクトロアートのノーザンテースト産駒に集約されているのが小気味よい。

この分ならノーザンテーストへの脈絡はオルフェーヴル産駒において必要がない。むしろこれに触れることは将来的にはマイナスであり、理想論を言えばNorthern Dancerにすら触れたくない。

オルフェーヴルが超大物種牡馬を輩出したならば間違いなくその母は非Northern Dancerである。もちろん「4分の3ノーザンテースト、4分の1異系」もいいが、将来を見越すならば。

その際には必ずTraverse・Prince Chavalier・Artist's Proofのいずれかがクロスされるに違いなく、それを起点としてオルフェーヴルのTracery的な靭やかさは後継へ託される。この点から俺は、オルフェーヴルを偉大な種牡馬とは見難く思っている。

低く見ているわけではない。実際にディープインパクトサンデーサイレンスとは比べ物にならない種牡馬であろう。明らかに扱いづらい血統をしている。時勢を見方につける様な種牡馬ではない。

だがそれを反転させた時にオルフェーヴルは偉大過ぎる種牡馬を産むに違いなく、その父系は一国の競馬を掌握するに違いない。ディープインパクトサンデーサイレンス級の大種牡馬を輩出することは出来ないが、オルフェーヴルサンデーサイレンス級の大種牡馬を輩出する。そしてそれはディープインパクト級の名馬を輩出するはずだ。

・格式高いニアリークロスとその昇華

Traceryは靭やかではあるけれど割りと突進力を好むイメージもある。その良き相棒としてあるのがBuchanであり、オルフェーヴルはBuchanの2代母Maid of the Mistを様々な血統から取り入れている。

ステイゴールド

Turn-to(母父父Craig an EranがMaid of the Mistの仔)

Victoria Park(父母父Buchan)

メジロマックイーン

スヰート(父母父St. GermansがBuchanと兄弟)

第六オーグメント(父父Buchan)

◯グランマスティーヴンス

Bronze Babu(母父父St. Germansが~同上)

これらの血統が発展する中で取り入れたものは大概同じである。

ただし、Maid of the Mistは2代母がOrmondeと全兄妹の間柄にある。OrmondeはOrmeを輩出する血統なのだからTraceryともTeddyとも無関係ではない。ErinがSir Gallahad=Bull Dogと脈絡してまくりを打つというのも、やはり、無関係ではない。ディーマジェスティがディープ的に靭やかでありつつもきっちりまくりを打てるというのも、当然のように、無関係ではない。

ただMaid of the MistとOrmeの発展は微妙に異なりを見せている。Teddyを基調としたこの配合においてパーシモン=ダイヤモンドジュビリー=フロリゼルの偉大な名血は見られない。

・デイクタスのすゝめ

ディクタスは強烈なスタミナと気の違った精神を伝える。スタミナに特化した配合というのはどうしてもちょっとおかしな気性を伝えがちな様で、これはレースというものを考えると当然と言うべきか。スタミナをレース中に活かすためには身体を超えた働きを気性に求めるしかない。

もちろん普通の気性を伝えるスタミナもあるが、それが後世に与える影響は決して大きくない。おかしな気性を以ってスタミナで支え、おかしなスタミナを気性で疾走させる配合でなければならないのだろう。そのせいかこの類の血統は適性距離よりも短いレースで結果を残して種牡馬入りすることが多い。エピファネイアとてベストは春天だっただろう。

強烈なスタミナを持つとは言っても実際のディクタスはマイル馬の父として伝わっている。自身も名マイラーであった経緯を思えば、自らのマイラー適性を伝えたと言うべきだろう。あるいはマイラー×マイラーの配合で成功したという風にも捉えられる。

おそらく適距離は中距離であったはずであるが、強いスタミナを引かないために速さが勝ったか。Swynfordのスピードが表現される血統であるがBlandford絡みのスタミナもやはり強い。しかしFlorizelもPersimmonもDiamond Jubileeも引かない配合であるから表現の枠に限界がある。

極めつけにThe TetrarchをMahmoudからポツンと引いてしまった。これはClementina=タドカスターの全きょうだいクロスが強烈であり、その一方でThormanbyへScottish Chiefのニアリークロスがなかなか入らない。Mahmoudの血統においてScottish ChiefはBlandfordのWhite Eagleから引くのみであり、これがPretty Polly=Mirandaとの大きな違いだ。この全姉妹の母AdmirationはScottish Chief≒Thormanby3×3だもの。

The Tetrarchという血統はThormanby=Lady Hawthornの全姉弟クロスが強い。La Sancyが2×3、次代はClementinaを異系とし、Roi Herodeの代にThormanby=Lady Hawthorn4×4×5。The Tetrarchの代では異系のClementinaへBend Or(タドカスター)のクロスが入りつつも、Thormanby=Lady Hawthornは継続されて5×5×6×6。母母Castaniaがその異系としてある。

Mumtaz Mahalのこのスピードはこの緊張と緩和の間柄が全てであろうし、突き詰めるとTouchistone-Newminster~タドカスターにおけるスピードの表現だろう。

その観点からはMahmoudというのは割りかし・・・不完全な配合であり、Clemenceの復活という観点からCarbineを求めるしかなかった血統である。そしてSanctusというのはその不完全を埋めようと努力した血統であり、そのためにPretty Polly=MIranadaの全姉妹クロスを持つDoronicを受け入れるに至った。当時としては非情に珍しい。

この観点からディクタスとダイナサッシュは似たコンセプトの配合だと言える。

・次世代へ残す3×4のインブリード

オルフェーヴルノーザンテースト3×4のインブリードで話題を集めた。「奇跡の血量」とも呼ばれるこの近親交配を17代ダービー卿がSt. Simonへ狙いすまし、Hyperionという名馬を作り上げた。他にもFairway=Pharos、Sickle、Alycidon、Mossboroughなども17代ダービー卿の手によるものである。Wikipediaの「奇跡の血量」にたくさんの例があり、便利である。

奇跡の血量を持つ血統において種牡馬として成功したのは、ウオッカを輩出したタニノギムレットや早逝の名種牡馬エルコンドルパサー、古くは上記のHyperion、Pharos、Alycidon。更にA.P. IndyAllegedトウショウボーイTourbillon、Apelle、Colorado・・・暇がない。

これらの前例を元にオルフェーヴル産駒を語るべきであるが厳しい。この配合は緊張と緩和の観点から破格と表現すべきものであり、前代未聞の三冠馬である。まだゴールドシップの方が配合は考えやすい。

インブリードにおけるダブルスタンダード

ある程度濃ゆい配合においては調和に難があり、大抵はそれを4分の1異系や相似配合でなんとかするものであるが、3×4という配合においてはそれも難しい。血統表の16分の3を一つの血統が占めてしまうものだから相似も異系もやりづらい。

であるからおおよそはその中間あたりをやってのける。そして三冠馬の輩出ともなると魔法じみた・・・ダブルスタンダードとも受け取れる歪な構造を正当化する。オルフェにおけるそれは「ゴールデンサッシュオリエンタルアート」かつ「4分の3Natalma≒Cosmah、4分の1メジロマックイーン」である。

並の馬であれば一貫性に欠けると断じるものであるが、結果が結果なだけにそれが出来ない。サンデーとマックイーンが二つの考えにおけるそれぞれの異系にあたり、普通であれば正当化できない状態だ。

例えばゴールドシップなどはRobertoやPrincely Giftの存在もあってステイゴールド≒ポイントフラッグという相似配合と見られる。もちろん厳密には不適切な表現なのだが、大枠においてはそうである。

ドリームジャーニーの観点からこの血統表を語れば「メジロマックイーンやディクタスへの配慮に欠け、配合のリズムに問題が見られる。」とかもっともらしい様なフワフワしたことを俺は偉そうにべらべらとやり始めるだろう。だがオルフェからはそんなこと言えやしない。

マックイーンとディクタスへの配慮とはアウトブリーダーである故に要するもの。強い緊張による揺れ動かしだ。だがこの2血統間に強い緊張が見られないし、ステイゴールド内におけるディクタスも、オリエンタルアート内におけるメジロマックイーンも、そういったことはない。そして自身がノーザンテースト4×3なのだから「配慮に欠ける」というわけだ。異系としての2血統へノーザンテーストは作用していないのだから、放置されていると見る。

配合のリズムについては、オリエンタルアートからすればノーザンテーストはクロスする理由があるのだが、ステイゴールド側にそれはないのだ。むしろステイゴールドからすればディクタスの緩和っぷりに手を付けたい。

つまりPersimmon=Florizel=Diamond Jubileeをこれへ注入し、スタミナ満点のマイラー血統という曖昧な状態に完結を見せるべきなのだ。これに絡んでHis Majestyのニックスがあったし、それを暴力的な手段で解決したのがアドマイヤリードであっただろう。「とりあえずPersimmonとFlorizelの直系血統を組み込みまくったMare Aux Feesが祖母なら大丈夫。」

しかしこれはLady Angelaをメインに考えた場合の、ドリームジャーニー的な回転力を主観においた考え方である。Mountain Flower×Lady Angela×AlicidonとFlaresクロスだけを見据えたもの。オルフェーヴルにおいてはむしろLady Angela≒Osirisからの発展と見るべきであり、脱Canterbury Pilgrimとしてのノーザンテーストクロスなのだ。おそらくこれが魔法の正体。

・離脱の4分の4、表現の4分の1

オルフェーヴルの血統上においては4分の4どころか16分の16くらいでCanterbury Pilgrimは存在しており、とても話にならない。この場合における切り口とはむしろCanterbury Pilgrimの強いクロスを持つ血統である。すなわちLavendula、Gulf Stream、Aurora、Lady Angelaの4血統。

この血統を主観に語れば「4分の3Lavendula、4分の1ゴールデンサッシュ」「4分の4Lady Angela≒Gulf Stream≒Aurora」となる。Hyperion×Swynfordが飽和状態にあるので、Lavendulaのアウトと取っているゴールデンサッシュがこの観点において表面化している可能性が高い。

ゴールデンサッシュは「4分の1Lady Angelaクロス」であるから、これが主役。HaloのBlue Larkspurクロスへ全く触れなかったディープインパクト的な状態と言える。次世代ステイゴールドでGulf Streamによるクロスしか無かったのであるから、その次世代オルフェーヴルにおいて4分の4となるのは自然な成り行き。

しかしMaid of the MistやGainsboroughを加味すればLady Victoria≒Turn-toくらいは言い切れる配合であり、またそれはNearcticNearco直仔)との絡みも加わってTurn-toによって増幅状態にあると言える。ハーツクライの場合におけるトニービン的な役割をディクタスが果たしているのだ。

よってゴールデンサッシュにおけるディクタスは未完成なままであり、上級ステイゴールド産駒の尽くがNorthern Dancerをクロスしていることを考えると、これにディクタスの完成を見ることが出来る。ディクタスの完成とはつまりMahmoudの完成のことであり、HaloとNorthern Dancer間におけるNatalma≒Cosmahによってこれは表現された。

・・・分ける。こんなのを短期集中で書き切ることは出来ない。分ける、投げる。

俺は七夕賞予想を書きたいのだ。

[fin]